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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



はっとした様子で凪が声を上げると、光臣が隣でぎょっと目を丸くする。南蛮貿易が以前よりいっそう盛んになって来た事で、日ノ本には様々な海外製の品々が入って来るようになった。まだ庶民ではおいそれと手の届かない値のものもあるが、流通量が増えた事でだいぶ緩和されたものも多い。

砂糖や糖蜜などの類いがそれにあたり、城下町内でも様々な菓子屋が増えて、職人達がしのぎを削っている。光秀と凪程の財力であれば糖蜜を手に入れる事も容易い、という意味とはまるで異なる見解を、隣で父がしれっと口にした。

「茶も蜜も混ぜて腹に入れば、どれも同じという事だろう」
「それは違います」
「おやおや」

きっぱりすっぱり凪に否定されると、光秀が可笑しそうにくつりと喉を鳴らす。暫し思案を巡らせた彼女が、隣を歩く光秀の白い着物の袖をくいっと控え目に引っ張った。

「光秀さん、帰りに少し市に寄ってもいいですか?牛乳が欲しくて」
「ああ、構わない。先に九兵衛へ仕入れさせる事も出来るが」
「皆でこっちの市も歩きたいので。向こうに居たのは三日間だけでしたけど、何だかその所為で乱世の景色が恋しいというか」

十年以上前はかなりの稀少品であった牛乳も、酪農業を発展させた事で市場に出回りやすくなった。安土城下町内へも堺港に勝るとも劣らない市が完成し、そこに様々な品が日々卸されている。五百年後の世に滞在したのはたったの二泊三日だが、それだけの短い期間であっても、乱世の景色が恋しく感じた。光秀が非番の間に、少しだけこちらの空気を家族四人で堪能したい、という凪の些細な我儘を、夫が叶えない筈がない。

「ならば、帰りに立ち寄るとしよう」
「良かった!今日は下城してからも楽しみがたくさんですね」
「わーい!みんなでいち、ぐるぐる!」

色好い返事を耳にして、凪が嬉しそうに微笑んだ。兄と手を繋ぎながら光鴇も声を上げて喜ぶ。

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