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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



受け取る相手の表情を想像し、細工や糸を選ぶのは思った以上に充実した刻だった。凪達が毎年生まれ日の祝いに贈り物を作るのは、そういった意味が含まれていたからなのだと知る。

「鴇くんの根付は、学問所用の巾着につけよっか」
「こりす、つける」
「では俺は、脇差しの下げ緒に」
「私もお出かけ用の巾着につけようかな」

乱世へ戻ったら、それぞれの持ち物へ光秀から贈られた根付をつけると張り切る面々を見て、光秀が瞼を伏せながら口元を綻ばせた。こうも喜んでくれるのならば、作った甲斐があったというものだ。賑わう三人の様子を穏やかな心地で眺めていた光秀であったが、ふと根付についた栗鼠の硝子細工を手にしたまま、光鴇がくるりと父へ振り返った。その表情は何処か不服そうである。

「どうした鴇、何やら急にご機嫌斜めのようだが」
「……とき、ひとつごふまん」
「ほう?言ってみるといい」

果たして何を言い出すのやら、と光秀が片眉を軽く持ち上げて促せば、光鴇がちらりと凪の手元にある巾着を見て頬を仔栗鼠の如く膨らませた。

「ははうえだけきんちゃく、ずるい」
「母上は女人故、何かと入用だろうが、お前が小さな巾着を持ったところで、入れるのは金平糖くらいだろう」
「こんぺいと、いれるふくろ、ほしい」
「まさかの金平糖専用巾着」

根付は全員一緒だが、凪だけ巾着付きというのがどうやら気に入らない様子であった。光臣は今更そういったものに文句をつける歳でもない上、男より女の方が何かと持ち物が多いと母を通して認識している為に何も思わなかったが、幼子はそうもいかないらしかった。確かに凪が光秀から貰った巾着は程良い小ささで小物を入れるのに丁度いい。無論、金平糖でも丁度いい。つい苦笑して凪が突っ込む傍ら、光秀が可笑しそうに肩を揺らして笑う。

「母が特別なのは当然だ」
「とき、とくべつじゃない?」
「兄やお前は、母の特別とは違った特別だな」

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