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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「見事な仔栗鼠ですね」
「栗鼠可愛いっ」

愛嬌たっぷりな栗鼠の硝子細工はまさに光鴇にぴったりだ。光秀から栗鼠付きの根付を渡され、幼子が嬉しそうに笑顔で言い切る。

「とき、きょうからこりす、なる」
「今のままでもお前は十分仔栗鼠だぞ」
「ん?」

ちょこまかと落ち着きのないところといい、小さくて素早いところといい、確かに実に仔栗鼠っぽい。すぐ頬を膨らませるから、という理由だけでなかったのかと凪が考えていると、光臣が興味を覗かせて母を見た。

「母上はどんなものを頂いたのですか?」
「あ、今開けるね」

凪がそっと箱を開けると、出て来たのは厚紙の台紙ではなかった。白と銀色、水色が使われたちりめん模様の小さな巾着に包まれ、真っ白な根付とその先端についた黒猫の姿が視界に入った。巾着と根付はセットのようで、生地と根付の色合いが見事に合っている。

(か、かわいい……!!!)

「ははうえ、ねこさん!」
「なんだか納得です。巾着の柄も繊細で綺麗ですね。乱世では見た事のない反物です」
「銀通しちりめんというらしい。お前に似合いの色だと思ってな」
「ありがとうございます……根付も巾着も凄く嬉しいです」

ちなみにちりめんが登場するのは乱世から見ればまだ先の事だ。後々、丹後ちりめんという名の織物が一躍名産となるのだが、それはまた別の話である。銀通しちりめんとは、その名の通りちりめんの織物に銀糸を組み込んだものを指す。浮かび上がるような繊細な模様が描くのは芙蓉の花で、その大輪の花を見て凪がふと微笑んだ。巾着は小物や小銭入れにちょうど良いサイズ感で、根付がついている為、乱世でも活躍しそうだ。

「大切にしますね」
「ときもだいじにする!」
「俺も御守り代わりに大切にします」

三人の笑顔を前に、光秀が双眸を眩しげに眇めた。細々した事は元来苦手ではないが、誰かの為にこうして自ら手作りするというのは、思い返せば初めての事だったかもしれない。

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