❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「房飾りは元々魔除けの御守りですけど、そこに私達の想いも込めました。……光秀さんが必ず無事で帰ってきますようにって」
「父上なら、どんな危険な場所へ行っても涼しい顔で帰って来そうですけどね」
「ちちうえ、ちゃんとかえってきてね」
魔を払うという箒を模した房飾り、そこに込められた家族の想いと言葉を受け取り、光秀が眩しげに双眸を眇めた。望む世を為す為、まだまだやらなければならない事が山程だ。そこに危険は当たり前の如くつきものではあるが、今の光秀には心から帰りたいと思える場所がある。
「……ああ、約束だ。必ずお前達の元へ帰る。何があっても」
瞼を伏せ、掌に乗せたとんぼ玉付きの房飾りを優しく握り締めた。その言葉だけで光秀が喜んでくれていると察した凪達が、嬉しそうに顔を見合わせる。そうして光臣が更に凪から預けられていた箱を光秀へと差し出した。
「贈り物はそれだけではありませんよ。こちらも皆で作った自信作です」
「さくです!」
「ありがとう、あの短い刻で二つも贈り物を用意するとはな」
「作りながら、光秀さんがいつ戻ってくるかってひやひやしてました」
体験工房で光臣達と共にせっせと贈り物作りをしていた凪達の一番の問題は、光秀に気付かれる事、であった。幸いにも気を利かせてくれた相手が席を外した事で作業は順調だったが、いつ戻って来るかまでは分からない。光鴇に監視役を頼み(途中から機能していなかったが)、手早く作業をするという難易度の高い事をよくやってのけたものだと、自分達の事ながら感心する。
一度房飾りを座卓の天板へ置いた後で、小箱とは異なり、水色の包装紙に金色のリボンが巻かれたそれを綺麗に開けると、真っ白な箱を静かに開けた。中から現れたのは薄い緩衝材に包まれていたもので、それを取り外すと卓に置ける高さである太めの竹が露わになった。竹の底部分が綺麗にくり抜かれ、完全に上下共蓋のない筒状の竹の表面には細やかな細工が施されている。