❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「房を編んだのは母上で、とんぼ玉とやらを括り付けたのは俺です」
「よく出来ているな。編み方も随分上達したらしい」
「ときも!ときもがんばった!」
「お前は何をしてくれたんだ?」
京都は組紐でも有名だ。上質な糸を幾つも紡いで編む作業はかなり根気がいるが、乱世ですっかりハンドメイドに慣れた所為か、思った以上に早く完成させる事が出来た。人間、慣れの生き物とは本当らしい。とんぼ玉と房飾りに括り付け、上に結ぶ為の紐を編んだのは光臣だ。
光秀に似て器用な性分故、凪の手元を見てすぐにやり方を覚え、あっという間に仕上げてしまった。穢れを知らない真っ白なそれは手にすれば実に触り心地が良く、美しい。自らも頑張ったと主張する光鴇へ視線を向ければ、幼子が誇らしげに言い張る。
「とき、ははうえといっしょに、とんぼだま、くるくるした」
「実はそのとんぼ玉、私達の手作りなんですよ」
「ほう……?びーどろを加工したとは驚いた」
「ひのまえで、くるくるってしたらくるくるってなった!」
房飾りの上に連なっている三つのとんぼ玉は、三人それぞれの手作りだ。光鴇はさすがに一人で火を扱わせる訳にはいかない為、凪と共に作った。ベネチアンガラスを用いて作ったとんぼ玉は実に繊細で、火の加減や扱い方でがらりと模様が変わる。同じものを作ろうとしても出来ない、唯一無二の品だ。
一番上のガラス玉は透明感のある中に、薄っすら水色と金色の模様が滲んでいる。二番目は白い筋が花の模様に見え、余計な色が一切ない澄んだものだった。三番目は形が少し他のものよりも歪だが、中央に水色と銀色が混ざった模様が刻まれている。凪の言葉に感心を寄せれば、光鴇が得意げに身振り手振りで伝えようとして来た。
「なるほど、この一番下がお前の作ったものか」
「ごめいと!」
指先で三つ目のとんぼ玉へ軽く触れると、男が何処か可笑しそうに言う。言い当てられて嬉しそうな子供が、にこにこと頷いた。