❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
クリームを口の周りにつけてケーキを頬張る光鴇も、丁寧で上品な所作ながら嬉しそうにそれを食べる光臣も、その光景を眺めている光秀へ、幸福という感情を強く湧き立たせる。
「柔らかくてふわふわだから、きっと光秀さん好みですね」
笑顔で隣を振り仰ぎ、凪が告げた。幼子が膝に居る為、まだチョコレートしか食べていなかった男は、これ幸いと自身の分の皿を静かに移動させる。眸を瞬かせる彼女に向けて、そうして悠然と笑みを浮かべた。
「生憎と手が塞がっていてな。お前が食べさせてくれないか」
「手というか、足?」
「正確には両手足だ」
「ふふ」
光秀の膝の中では、相変わらず光鴇が夢中になってケーキを食べている。口周りだけでなく、何故か鼻の頭にまで白いクリームがちょんとついており、微笑ましさに面持ちが綻んだ。改めて視線を向けると、光秀が凪へ穏やかな眼差しを向けている。決して断られないと分かっている相手の物言いに笑みを零し、自身のフォークから光秀のそれへと持ち替えた。
「今日は光秀さんが主役なので、幾らでもどうぞ」
「それは役得だな」
一口大に切ったケーキの上に一輪の水色桔梗を乗せ、凪が光秀へ差し出す。鼻孔をくすぐる甘く優しい香りに双眸を眇めて笑んだ男が、ひとつ囁いてそっと唇を開けたのだった。
初めてのバースデーケーキをじっくりと堪能した後、座卓の上を綺麗に片付け、凪は寝室の入り口前に置いていた紙袋を持って戻った。ぺろりと一人分を平らげた光鴇が、実にご満悦な様子で光秀に口の周りを拭かれている。光臣もケーキに満足したらしく、すっかり全員寛ぐ態勢だ。しかし凪が持って来た紙袋の存在に気付き、面々がはっとした表情を浮かべる。それは昨日、硝子細工体験工房で作った、光秀への贈り物であった。
「という訳でケーキも美味しくいただいたので、次はこれです」
「お前達が俺に隠し事をしていたものか」