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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「おいで、ならば一緒に消すとしよう」
「わーい!」
「臣くんは消さなくていいの?」
「俺は結構です…っ」
「まあそう遠慮するな」

ある意味いつもの定位置へとしっかり収まり、光鴇が笑顔になる。弟が消すのならば兄も、と凪が気遣って声をかけると、子供扱いされたくない微妙な年頃故か、光臣がやや頬を赤くして首を振った。しかし、そんな抵抗など父の前ではまるで意味をなさないというものだ。揶揄めいた調子で光秀が光臣へ視線を流す傍らで、蝋が垂れ始めたのを見やり、凪が明るい声を上げる。

「じゃあ私が合図したら皆で消してね、せーの」
「ふー!」

合図したと同時、光秀と光鴇、そして咄嗟につられた光臣がろうそくの火を吹き消した。灯りが消えた事で室内が真っ暗になり、窓から射し込む月明かりだけが光源となる。立ち上がった凪が照明のスイッチを入れれば、再び室内が昼間のように明るい光に満たされた。改めて橙色の明かりに照らされると、バースデーケーキが先程よりも鮮明に面々の視界へ映し出される。

「見事なものだな。菓子でここまで繊細に作れるとは、余程職人の腕がいいんだろう」
「特に水色桔梗が凄く綺麗に表現されてますよね。これ、全部食べられるんですよ」
「おはな、たべるの?」
「うん、全部チョコで出来てるんだよ。じゃあろうそく外して、切り分けよっか」
「たべる!」

五百年後の世へ訪れ、様々なものを目にして来たが、その中でもこのケーキは格別だ。乱世の人間では、食べ物と予め知らされていないと気付けない程だろう。何かを美しいと思う感慨は正直あまり光秀にとって無いに等しいが、愛しい妻や子らが自身の為にと用意してくれたものは別だ。真っ白な菓子の上に乗る、沢山の水色桔梗を見て目元を柔らかく綻ばせ、光秀が優しく微笑した。

ケーキナイフを取り出し、きれいに切り分ける。花をばっさり切るのは偲びなかったので、ナイフが当たってしまいそうな場所は予め花を退かして切った。

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