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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



凪が優しく声をかけると、案の定光鴇は頬をぷくっと膨らませて不服な様をアピールする。だいぶ筆が乗っている状態なのか、ペンギンの嘴(くちばし)を塗っていた黄色いクレヨンをぎゅっと握って首を振った。だが凪とて伊達にかれこれ四年も幼子の母をやっている訳ではない。お絵描きを中断する事を嫌がるなど想定の範囲内だ。よって確実に光鴇が興味をそそるものを提示するべく、片手を口元へあてがい、こそりと小さな耳元へ顔を寄せた。

「光秀さんのお祝いするから、鴇くんもお手伝いしてくれる?」
「!!!」

光秀のお祝い、と耳にして子供が大きな猫目を更に大きくした。母の言わんとしている事を察したらしく、きらきらと眸を輝かせながらしっかりと頷いた。クレヨンを素早くケースの中へ仕舞い、いそいそと動き出す。

「とき、おてつだい、する」
「じゃあこのテーブル……じゃなくて座卓の上をきれいにしないとね」
「わかった。きれいきれい、するね」

開いていたスケッチブックを閉ざし、散らばっていた色とりどりのクレヨンも次々に収めて行く様を見て、凪が笑みを浮かべた。急に弟がお絵描きを中断した様に気付き、光臣も何事かを察したのだろう。テレビから意識を逸らしておもむろに立ち上がった。あからさまにそわそわした雰囲気で片付けをしている光鴇と、何事かを囁いた凪、そして動き出した光臣の様子を視界に入れ、光秀がくすりと音もなく笑う。三人が企みを抱いているなど明白だが、こればかりは安易に暴けまい。

(何を企んでいるのやら)

座卓に広げていたお絵描きセットを光鴇が片付けて袋に仕舞った後、敷いていた新聞紙を畳んで退かした光臣が、濡れた布巾で座卓の天板を拭く。次いで光鴇に手を洗わせる為、兄が甲斐甲斐しくも洗面所へと弟を連れて行った。一方凪はといえば、冷蔵庫に入れていたケーキの箱を取り出し、蓋を開ける。

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