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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



光鴇の隣に座って手元を覗き込めば、ぱっと顔を上げた幼子が自信満々に笑顔を浮かべる。

「とき、ひでよしかいてた!」
「えっ、秀吉さんってもしかして……」
「ああ、そのまさかだ」

幼子の発言に引っ掛かりを覚えた凪が、ちらりと光秀を見る。座椅子へ胡座をかいて座っていた男が、何処となく含みのある調子で口角を持ち上げた。今一度光鴇の手元を覗き見ると、真っ白なスケッチブックには、緑の草が生えている場所に、白と黒の丸耳を持った生き物が描かれている。ちなみに木やタイヤのブランコなどもしっかり再現されており、理解している者が見れば中々に高クオリティな作品だ。

(こ、これはパンダの方のひでよしさん……!!)

凪が衝撃を受けている様を横目に、光秀が肩を揺らしてくつくつと笑った。すっかりパンダのひでよしを気に入ったらしい光鴇は、動物園内で流れていたBGMと思わしき鼻歌を歌いながら握り持ったクレヨンをご機嫌に動かしている。

「いまひでよし、きからおちたとこ、かいてる」
「シーンのチョイスが無邪気に残酷……」
「完成した絵を向こうに戻ったら本人に見せるそうだ」

何故かパンダが宙に浮いていると思ったら、木登りで失敗して落下した場面を描いているという。子供とは時に残酷な生き物なのだ。当人は至って悪気がない為、止める事も憚られる。光秀から付け加えられた言葉へ更に目を丸くし、凪が光鴇へ訊ねた。

「えっ!?秀吉さんに見せるの?」
「みせる!とき、これじしんさく」
「仔栗鼠相手にあの男がどう反応するか楽しみだな」
「光秀さん、悪い顔してますよ……」

しっかりと頷いた光鴇が、黒いクレヨンを手にしてパンダの耳部分を塗る。顔や身体の模様なども上手く表現出来ており、光秀譲りの記憶力の良さに感心する反面、新しいからかいのネタが出来たと言わんばかりの男を振り返って凪が眉尻を下げた。

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