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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



いつまでもこうして女扱いしてくれる事を嬉しく、そして気恥ずかしく思いながら、甘えるように光秀の肩へ軽く凭れかかった。

「懐かしいな」
「何がですか?」
「お前が初めて俺の生まれ日を祝ってくれた時も、温泉だっただろう?」

ぽつりと零したそれに凪が軽く首を傾げる。いつかの過去を思い描くかの如く、光秀が穏やかな声で応えた。凪と光秀が恋仲になって、初めての誕生日。堺に程近い温泉宿を貸し切って一夜を過ごした事を思い出し、彼女が微かに眸を瞠った。腰を抱いていた光秀の手がそっと凪の片手を取って指を絡める。深く繋ぐ体勢になりながら、男が向かい側ではしゃぐ子供達を目にし、僅かに双眸を眇めた。

「あの頃とは何もかもが異なるが、その変化がこうも愛おしく思える日が来るとはな」
「そうですね……あの時は、こんな風に二人も子供が出来るなんて全然想像してなかったです」
「それもそうだが、俺にとってはもっと以前からだ」
「前から……?」

繋いだ指先にきゅっと力を込め、光秀が低く掠れた声で囁く。まるで凪にだけ語って聞かせる秘密を明かすように、鮮やかな記憶の中から様々な思い出を反芻させ、瞼を伏せた。初めての誕生日を祝った当時は、自分自身が光秀の妻になるという事に、あまり実感めいたものが湧いていなかったように思える。

それはそうだ、現代と乱世では結婚における価値観が何もかも異なる。まして付き合って数ヶ月の仲で、すぐに結婚とは現代人であれば簡単に直結するものではないだろう。そんな自分が二人の子をもうけ、光秀の妻として傍に居る。それは言葉に表しようのない、奇跡に感じられた。

光秀の言葉へ吸い寄せられるよう視線を向ける。子供達を映していた金色の眸が、そのまま凪へと流された。見つめられるだけで心が落ち着かず、胸の奥が愛しさと恥ずかしさで疼く反面、ずっと見つめていたくなるような衝動が湧き上がるそれを見返し、凪が首を傾げる。

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