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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



見た目にも中々ユニークな浴槽に入りたいと主張する光鴇へ、凪達もまた視線を向ける。割りと露天風呂に出てからというもの、密かに謎の釜の存在が気になっていたらしい光臣が光鴇に声をかけた。一人で入らせるにはさすがに不安だが、兄と二人ならば問題ないだろう。檜の浴槽から上がろうとする二人の息子達に向けて、凪が意識を向ける。

「二人とも、足とか滑らせないようにね」
「はい、大丈夫です」
「かま、あにうえといっしょ、はいる!」
「ほう……?では、釜茹でにされないよう気を付ける事だな」
「!!?」
「もう、光秀さん」

兄と手を繋ぎながら意気揚々と檜の浴槽から少し離れた場所にある釜湯へ向かって行く兄弟に、凪が声をかける。嬉しそうな笑顔を浮かべる幼子に向かい、光秀が片眉を持ち上げて意地の悪い言葉を投げかけた。この父が言うと、どんな冗談も大抵冗談には聞こえなくなるのが玉に瑕というべきか。案の定、ぎょっとした顔で大きな猫目を丸くし、振り返った光鴇を見て、男がくつくつと可笑しそうに笑いを零す。心底愉しげな光秀の横顔を眺めつつ、それを窘めるようにして凪が苦笑した。

子供達が釜湯に向かった後、凪は改めてはあ、と心地よさから溜息を漏らす。幾らでも入っていられる、とはさすがに言い過ぎだが、そう感じられる程の極楽具合だ。正面には釜湯に浸かって楽しそうな兄弟の姿がある。和やかなひとときを噛み締めていると、バスタオルに包まれた腰が男の腕によってそっと抱き寄せられた。

「ばすたおるとやらがあるのが惜しいところだ」
「取っちゃ駄目ですよ?鴇くんはともかく、臣くんがびっくりしちゃいます」
「分かっている。俺の子とはいえ、愛しい妻の身を晒す訳にはいかない」
「それもどうかと思いますけど……」

腰を抱き寄せられた事で、互いの肌が密着する。肩に男のしなやかな胸板がとん、と当たり、鼓動が淡く跳ねた。あながち冗談でもなさそうな物言いの光秀を見上げ、凪が眉尻を下げる。

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