❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「わあっ!?臣くん……!!?」
「ちちうえすごい!あにうえうちとった!」
高い位置で結い上げた長い銀糸ごと濡れた少年が犬のように首を左右に振る様を見て、凪が驚いた声を上げる。隣では弟が父の見事な狙い撃ちへ興奮したようにばしゃばしゃと湯を鳴らした。
「ああ、これは済まないな。少々手元が狂ったらしい」
「狂ったではなく、狙ったの間違いでしょう!」
「まさか。たまたま俺が撃った先にお前が居ただけの事だろう」
「誤魔化すなんて大人げないですよ、父上!」
「はて、何の事やら」
あからさまに含みのある調子で、微塵も悪びれていない男が口角を持ち上げる。地味に負けず嫌いなきらいのある光臣が眉根を寄せ、父に似通った面持ちを顰めた。あくまでもしらを切るていの父にむっとした表情を浮かべた少年が対抗するように水鉄砲を光秀へ向けて撃つ。しかし軽々首を傾けてそれを避けると、意地の悪い色を灯した男が喉奥で低く笑った。
「まだまだ狙いが甘いぞ、童(わっぱ)」
「くっ……!!」
「ときも!ときもあにうえねらう!」
「そこは普通父上だろ」
「もんどうむよう!えい!」
挑発するようなそれに、光臣が心底悔しげな表情で奥歯を噛み締める。父と兄の(一方的な)攻防戦を目にしている内、光鴇が嬉しそうに声を上げて自身も参戦すると言わんばかりに、両手で湯を兄に向かってばしゃっとかけた。もはや水鉄砲でもなんでもないが、幼子がご機嫌を直したのならばそれでいいだろう。湯の跳ねる音とむきになる光臣の声、そして楽しそうにきゃっきゃと騒ぐ光鴇の笑い声を耳にし、凪がほっこりした心地で父と子二人の様子を見守った。
(二人が赤ちゃんの頃から光秀さんって結構子守りとか遊んだりするの上手だったけど、それは今でも変わらないなあ。ていうか二人も可愛いけど、遊んでる光秀さん可愛い。癒やし……)
二人の子らがそれぞれ赤子の頃から、何かと光秀は御殿に居る間、子育てに協力してくれていたが、それは息子達が成長した今でも変わらない。