❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
瞼を伏せて吐息混じりの笑みを零した光秀が、おもむろにそれを持ち上げる。
「ああ、そうするとしよう」
穏やかな声色を耳にし、凪が嬉しそうにはにかんだ。現代へ旅行に来てからというもの、光秀の柔らかな声をよく聞いている気がする。常に気を張り詰めて生きている男が、不器用ながらも肩の力を抜いて過ごしてくれている、その証明のような気がして素直に嬉しい。
(改めて、佐助くんに感謝だなあ。こんなに素敵な誕生日を過ごせるなんて)
あの時、佐助が提案してくれていなければ、ここまで思い出に残る誕生日を祝う事など出来なかっただろう。最初はどうなる事かと思ったが、光秀の血が濃い故か子供達の適応能力も高くて安心だ。旅行は明日でおしまいだが、それでも現代から離れ難いと感じる気持ちは湧いて来ない。その代わり、今夜を目一杯楽しもうと思い直していると、不意に膝上へ置いていた片手が、湯の中でそっと握り込まれた。
「!」
凪がはっとして隣に居る光秀を見上げると、彼が少し悪戯に眸を眇め、綺麗に笑った。指先同士を絡めるようにして手を繋ぎ、それが光秀の膝上に置かれる。着物越しの膝ではなく、湯の中とはいえ素肌に触れている感覚が何となく新鮮で、凪が鈴の鳴るような笑いを零した。
「どうした、凪」
「なんでもないです。ただ、何か幸せだなって思って」
「そうか」
問われるままに答えると、光秀もまた穏やかな相槌を打つのみだ。互いの何処かが触れていれば安心する。十年余り前と変わらぬその感覚が、互いの間に未だ根付いていると思うと、何となく面映ゆい気もしなくはないが、反面とても幸せだ。給湯口から注がれる湯の音が静かに響く中、ふと光鴇が小さな両手を合わせて水面で何かをやり始めた。
「鴇くん、何やってるの?」
「とき、みずでっぽ、やってる」
「ああ、あれか。鴇お前、上手く出来ないだろう?」
「むっ……とき、みずでばんばんできる」