❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
光秀の言う、心から惚れ抜いた女が誰を指しているのかなど、今更考えるべくもない。母をいじめるのは時折どうかと思う光臣ではあるが、父母の関係性は子である自身から見ても羨むものである事に変わりはない。自分にそんな相手が現れるのか、というのはまだ現実味がなくて理解し切れないが、父が母に注ぐ愛情は誇りだ。瞼を伏せて微かに笑みを浮かべた少年が、相槌を打つ。親子で湯に浸かりながら穏やかな会話を楽しむ事が出来るのを嬉しく思っていると、部屋と露天風呂を繋ぐ硝子が開閉される音が聞こえ来た。
「わあ、近くで見ると浴槽大きいね!」
嬉しそうに弾んだ凪の声に男三人が視線を向ける。白い湯煙が立ち上る中、彼女の姿が視界に映り込むと、光秀、光臣が微かに目を丸くした。真っ白なバスタオルを巻いて胸元から大腿の半ばまでを隠し、髪をまとめ上げた凪が、浴槽の方へと近付いて来る。現代の洋服を着ている姿を目にしている為、真っ白な細い足が露出している点は辛うじて耐性がついたものの、肩や首筋、胸元が露わになっているのは、乱世育ちには中々に衝撃的な光景であった。
「は、母上……!!?」
「わーい!ははうえもいっしょ、ゆあみ!」
「ばすたおるとやらをどう使うのかと思ったが、そういう事だったか」
「はい、湯帷子みたいに濡れても透けないですし、厚みもあるから安心感強めな感じです」
もっとも、衝撃を受けているのは光臣一人であり、弟は家族で湯浴み出来る事自体を無邪気に喜んでいるのみであった。光秀に至っては多少の驚きこそあれ、彼女の肌は散々自ら暴いて来ている。湯帷子は濡れると透けてぴったりと肌に張り付いてしまう為、着ていてもある意味抵抗があるが、バスタオルはその点実に心強い。ちなみに旅館側へは、事前にタオル着用の上で入浴してもいいか確認済みである。
「湯加減はどうですか?」
「鴇が普通に入っていられる程度には、適温だ」
「あったかくてふかいよ!とき、さっきぶくぶくってなった」
「えっ」