• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「俺も土産にと色々もらいましたよ。先日ははねぺんという南蛮の筆をもらいました。見目が美しくて、使うのが勿体ないくらいです」
「あの男と出くわさないところを見ると、俺が視察任務中の折に敷居を跨いでいるようだな」
「ちなみに母上にはいつも甘味と真っ白なばらとやらの花束を贈ってますよ」
「懲りない男だ」

金子を甘味屋の店主に差し出し、これで買えるだけの金平糖を用意してもらおう、と言っている男の姿が安易に想像出来、光秀が溜息を漏らした。子供達に関して疎まれるよりは好かれた方がいいのだろうが、と光臣の話を耳にしていると、次いだ凪の話題に光秀が柳眉を軽く寄せる。花に罪はないが、自身の愛しい妻へ他の男が花を贈っていると聞いていい気分がする夫はそうそういまい。

「そういえば、父上は母上に反物を土産として買って来ますよね。何故いつも反物なのですか?」

───光秀さんが選んでくれる色が、私の好きな色で一番似合う色だと思ってます。だってほら、光秀さんって目利き凄いですし!

光臣が零した疑問を耳にし、いつか凪に言われた言葉が脳裏を過ぎった。それは随分と昔に彼女が口にしていたものだ。今も凪は十年前と変わらず、光秀が見立てた反物で仕立てた小袖を嬉しそうに受け取り、日々身にまとっている。自身が選んだものへ、愛する妻が嬉しそうに袖を通す様を思い描く事が、任務中の楽しみの一つとなっている、などとは気恥ずかしくて言えやしないが。

(その所為ですっかり凪の箪笥は小袖で溢れ返っているが)

明日着る為の気に入りの一着を必ず衣桁(いこう)にかけて眠る、そんな癖がついている彼女の姿を目にする事が幸せで、例えすれ違った生活であっても、かけられた着物を見るだけで満たされる。瞼を伏せて小さく吐息混じりの笑いを零し、光秀が緩慢に金色のそれを露わにしながら告げた。

「それはいつか、お前に心から惚れ抜いた女が出来れば、おのずと分かる」

/ 800ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp