❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
全裸でなければ辛うじて、と答える光臣も実に複雑そうな表情だが、年頃の少年とはそんなものだろう。凪の様子を見て家族皆で入ると解釈したらしい光鴇が、早速衣服を脱ぎ始める。畳へ座り込み、狐の顔が描かれた靴下のつま先を引っ張って脱ぐ素振りを見せると、凪が全員分の着替えやバスタオルなどを用意するべく動き出した。そうしている間にも片方の靴下を引っ張り脱いだ光鴇が、脱いだそれを適当に放る。
「ぽいっ!」
靴下が軽やかに飛んだのを見やり、光秀がそれを難なく掴んだ。そうして光鴇の背後へ屈み込み、幼子をいつもの調子で窘める。父が本気で怒ると怖い事は何度も経験済みだが、どうにもまだ甘えが抜けきらない様子に、光臣が傍でそっと苦笑を漏らした。
「こら、脱いだものを投げては駄目だろう」
「とき、ぽいってしたかった。うっ……あたま、とれない……ちちうえたすけて」
「やれやれ、貸してごらん」
中途半端なところで頭を上手く抜く事が出来ず、止まっている幼子が小さく呻けば、光秀がさり気ない様子で手を貸してやった。パーカーを脱ぎ、それを畳んで傍に置く父へありがと!と礼を言った後、再び靴下を引っ張り脱ぐ。
「あ、光秀さん、鴇くんのお着替え手伝ってくれたんですね。ありがとうございます。これ皆の分の着替えとバスタオルです」
「ありがとうございます、母上」
「済まないな。俺や子らは問題ないが、お前の湯帷子の用意はあるのか」
寝間着となる着流しや羽織、帯などをそれぞれ渡した後で、旅館側が用意してくれていた真っ白な大判のバスタオルを渡す。光鴇は既に衣服を脱ぎ終え、準備万端とばかりに裸の状態だ。凪が子供の衣服を畳んでいると、光秀が確認するよう問うて来る。彼女が持って来たのは告げた通り着替えとタオルだけで、湯帷子と思わしきものが見当たらなかったからだ。
「さっき言いそびれましたけど、こっちだと湯帷子着て温泉は入らないんですよ?」
「えっ!!?そうなのですか!?」
「ほう……?こちらの世の者達は存外大胆らしい」