❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
一歩光秀が距離を詰め、光鴇の頭へ置いていた片手を伸ばす。すり、と頬を滑る優しい指先は、まるで悪魔の誘惑だ。とはいえここは五百年後の現代、絶対無いとは言い切れないが、露天風呂に怪しい危険人物が乱入など、ドラマでもあるまいし、普通に考えて無い。だというのに、光秀に言われると何だか妙な説得力があった。次いで父の言葉を真似るようにしている幼子も、真剣な顔でうんうん、と訳も分からない割に頷いている。
(母上、意外と……でもないが、流されやすいからな……)
よく分からない説得力のある言葉にたじろぐ母を横目に見て、光臣が内心で小さく零した。その間にも凪を丸め込もうとする光秀の策は続く。
「要するに、お前が一人湯浴みしている間も、この障子は閉めるつもりはない、と言っている」
「ええっ……!!?」
「いや、そこは母上を気遣って閉めましょう父上……」
凪の血を中身的に案外強く受け継いでいるからか、条件反射で突っ込んでしまった長男を他所に、凪がぎょっとして目を丸くする。露天風呂で一人裸のまま寛ぐ姿を堂々と晒すなど、何の羞恥プレイなのか。光秀のとんでも発言に言葉を失った彼女が、内心でひやりと汗を流す。この夫がやると言ったら割りと本気でやる男だという事は、連れ添った年月で分かっているとあって、冗談だよね、などと聞き返すだけ無駄なのだ。
「なに、湯帷子(ゆかたびら)を着て入るなら問題ないだろう」
「みんないっしょ、なかよしゆあみ!」
「仔狐もそう言っている」
「ず、ずるい……」
すっかり凪も共に入る想定で無邪気に喜ぶ光鴇へ視線を流し、口元へ綺麗な弧を描いた男が駄目押しとばかりに告げる。ぐうの音も出ないとはまさにこの事か。眉尻を下げた困り顔の彼女が、暫し思案してちらりと光臣を見た。
「臣くんは嫌じゃない……?」
「まあ湯帷子を着るなら問題はないですけど……」
「わーい!とき、いちばんにはいる!これ、ぽいってぬぐね!」
「わっ、鴇くんちょっと待って!今お着替えとか持って来るから」