❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
凪の文句など、光秀にはあって無きようなものだ。人通りの邪魔にならぬよう繋いだ片手を引いて道の端へと寄り、緩やかな微笑を浮かべる。猿芝居とは、現代へ来た翌日と翌々日に行ったストリート殺陣アクトの事だ。それで稼いだ小遣いに関しては、使い切らないと明日以降はもう必要の無いものになってしまう。せっかく買って貰ったのだからと礼を言い、凪が笑いかけた。何だかんだで波乱の内容であったが、それもまたいい思い出のひとつである。
「残念なのは私の大根具合です……」
「幸村殿もお前と張り合える大根役者ぶりだったな」
「きっと緊張してたんですよ。私も何度やっても慣れなかったし」
「こなれていない方が却って愛嬌があるというものだ」
惜しむらくは自分が大根だった事くらいか。同じ大根仲間、幸村の名が光秀の口から紡がれると、凪がくすくす笑った。フォローなのかそうでないのか、いまいち判断しかねる相槌を打つ光秀にいざなわれ、人の流れに戻る。手にしていた林檎飴をかり、と微かな音を立てて齧ると、仄かな酸味と飴の甘さが口内へ広がった。
「懐かしい味ー、これもよく買って貰ってました」
「ほう……母君に駄々でもこねていたのか?」
「これは普通に買って貰ってました。いつも駄々こねてた訳じゃないですからね」
綿あめ同様、祭りの際には大抵買って貰っていた思い出の味だ。先程の話を思い出したのか、光秀が冗談めかした調子で首を傾げる。口元へ刻まれている笑みを見て、彼女が苦笑すると林檎飴を光秀の方へ差し出した。
かりっと微かな音を立てて光秀が林檎飴を一口齧る。表面にコーティングされた飴と中の果肉が口内で混ざり合う感覚は少々不思議な食感だ。乱世で見られる飴細工の飴よりも甘いそれは、先刻食べた綿あめとも少し異なる。もっとも、甘いという感覚以外、味についての繊細な感想など湧き上がって来る筈も無い光秀にとって、やはり凪とそれを分け合ったという事実の方が重要であった。