❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
促されるままに二人で足を進めて行くと、周囲から甘い香りが漂って来た。チョコバナナに鯛焼き、フライドポテトや唐揚げ、祭りの定番になっている軽食系の出店を通り過ぎ、凪が足を止めた先では、ディスプレイに赤くて丸い、小さな実がつやつやと輝きながら幾つも立てられている。
「これです。光秀さん、食べたこと無いですよね」
「この香りは、飴か?」
「林檎飴ですよ、林檎の周りを飴で包んだものです」
「これはまた、随分と小さな林檎だな」
店前で沢山並べられている、紅くて艷やかなそれは掌にすっぽりと収まってしまう程に小さい。このように小さな林檎は見たことが無く、感心した様子で光秀が呟くと凪がはにかんだ。
「こういう小さい実がなる種類のものもあるんですよ。小さいけど、甘くて美味しいです。すみません…──────」
「ひとつ貰おう」
店番の男へ声をかけ、繋いでいた手を解いて巾着から財布を取り出そうとした瞬間、凪の言葉の先を奪った男が百円硬貨を三枚手渡した。店番の男が受け取り、好きなものを持っていくように告げる。手前にある丸々した姫林檎で作られた林檎飴を手にし、光秀がそれを凪へ差し出した。
「ご所望の品だ。落とさないように気を付けて持つといい」
提灯の灯りに照らされた林檎飴は、コーティングしている飴で艶を増し、赤々とした色がいっそう惹き立つようだ。その赤を手にしている光秀を見て、凪が一瞬色彩に目を奪われる。白い着物の袖がゆらりと揺れる様も、長くすらりとした立ち姿を惹き立たせる白い袴も、まるで映画のワンシーンのように見えてしまう。けれども、小さくて可愛い姫林檎が光秀の手にある様は可愛らしくもあり、きゅんと疼く胸の内を誤魔化すよう、彼女は眉根を軽く寄せて見せた。
「もう、私が買って光秀さんに食べさせたかったのに」
「何の為に猿芝居をしたと思っている。いいから大人しく甘やかされておけ」
「……ありがとうございます。じゃあ一緒に食べましょうね。それに、私あの即興お芝居好きですよ?面白かったし」