❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「甘いな。林檎に飴をかけるとは、変わった事を思い付いたものだ」
「どんな料理にも言える事ですけど、最初に考えた人って凄いですよね。ちなみに林檎飴以外にも、苺飴や蜜柑飴なんていうのもあるんですよ」
「いちごとはなんだ、それも林檎と同じ水菓子か」
口内を満たす多幸感をもたらす甘さを飲み下し、光秀が感心を覗かせて告げる。凪もまた林檎飴を小さく齧った後、それが溶けて行く感覚に面持ちを綻ばせながら、様々な飴の種類を挙げた。地方等によって種類は多岐に渡るが、やはり主流は林檎飴だろう。そんな中、光秀が聞き慣れぬ単語を耳にして問う。苺は江戸時代末期に日本へ観賞用として伝わった為、まだ乱世では存在していない。
「あ、そっか……乱世ってまだ苺無いんだ。えーと…あのクレープ屋さんに飾られてる赤い実の事です」
はっとした様子で凪が呟きを零す。周囲に苺を取り扱っている出店は無いかと見回したところで、ふとクレープ屋のキッチンカーが視界へ映り込んだ。ちょうどディスプレイ用として苺チョコクレープが飾られており、円錐(えんすい)状に丸められた黄色い生地の中から覗く、赤い果実を指して光秀へ示す。
「ヤマボウシの実に少々似ているな」
「確かにそうですね…!ものによりけりですけど、甘くて美味しいですよ」
「かふぇとやらで食べたぱふぇもそうだが、食を飾り付ける事に意義を然程見い出せない俺であっても、それ故にこの国が豊かだという事実はよく分かる」
色とりどりのチョコスプレーがふりかけられ、半分に切られた苺が綺麗にトッピングされた上にたっぷりの生クリームとチョコレートソースがかかっているクレープを視界に入れ、光秀が呟いた。食に興味が無く、花を眺めて愛でる趣味も無い、そういった情緒を感じるものへ然程の関心も無い光秀にとって、料理の盛り付けや飾りというのは重要な要素では無い。よく、目でも舌でも楽しむと言われるが、そのどちらでも楽しむという感慨を持たない光秀には、この五百年後の日の本で目にする料理はいずれも随分と手が込んでいるな、程度にしか映らないのだが、それでも感じ取れる事はある。