【MARVEL】This is my selfishness
第5章 5th
毎回バッキーの口に運ぶのは、正直言って面倒だ。
だって自分のペースだけじゃなく、バッキーのペースも気にしなくちゃいけないし。
「こっちも君が食べるから一本で十分だろ」
『えっ、ガトーショコラは?』
「君が食べればいい」
『バッキーも食べるんじゃ…』
「一口で十分だ」
『でもこれバッキーの分……』
確かに2つとも食べれるのは嬉しいんだけど…
わたしの考えは見透かされているのか、バッキーはガトーショコラのお皿もわたしの方へと押しやった。
「甘いの好きだろ?俺の分も食べていいから。一口だけくれたらいい」
そう言ってまたバッキーは口をパカッと開く。
『…ありがとう』
今度はちゃんと意味を汲み取って開いている口にガトーショコラを1口分フォークで運ぶ。
「ん。これで十分だ」
満足そうにその1口を食べ終えた。
「見てるこっちが胸焼けしそうだ…」
わたし達のやり取りをずっと見ていたであろうサムさんが眉間にシワを寄せていた。
そんなサムさんに、注文していたバーガーが届いた。
「頼んできてくれたのか」
『嫌いじゃなければいいんですけど…』
「大丈夫だ。代金はバッキーか?」
『そうなんです。あ、わたしまだ払ってないから、』
財布を取り出そうとするとバッキーに止められた。
「今度店に行った時に1杯奢ってくれ」
口角を上げるバッキーにサムさんは「あんたが払ったならいっか」とバーガーに手をかけた。そんなサムさんにバッキーは視線をやったけどサムさんは何処吹く風だ。そういうやり取りが出来るくらいには2人とも仲が良いみたい。
『サムさんって芸能人とかだったりします?』
「ゴフッ」
わたしの質問にサムさんがバーガーを喉に詰まらせた。
隣でバッキーもコーヒーカップをソーサーに置き、口元を手袋をした手で拭っていた。
「…何でだ?」
落ち着いたサムさんが姿勢を整えてわたしを見る。
『さっきいろんな人と写真を撮ったりしていたので、ミュージカルとか何かアーティストなのかと……サムさんを初めて見た気がしないんですよね…』
う〜ん…何かで見た気がするのに思い出そうとすればするほどモヤがかかるというか……