【MARVEL】This is my selfishness
第5章 5th
名前を呼ぶと気まずそうに『お待たせ』と言われた。
自分のせいで会話が止まった…とでも考えたのだろうか?
今、ミア以外に優先すべきことは無いのに。
自分の中でその言葉が真っ先に浮かんだことに自分のことながら内心驚く。
驚くと同時に納得もする。
俺が色気のある視線を送られてもそそられなかったのはミアと出会ったから。
今は彼女だけを見ていたい。
手を繋いだままアパートに向かう。
ミアはまるで「どうしたらいいかわからない」とでも言うように繋いだ手から戸惑いが感じられる。
握り返そうかどうしようかと彼女の指先がモゾモゾとしている。
意を決したのか、その指先に小さく力が入り、俺の手が握り返された。
心に暖かいものが流れ込んでくる。
彼女の手を暖めようと手を握ったのは俺なのに。
俺の方が暖かさをもらっている。
アパートに着くまで、手を握ったまま夜の静寂さに息を潜めるようにわたし達は無言だった。
エントランスのドアをバッキーが開けてくれる。
その際に繋いでいた手が離れ、夜の冷えた空気が暖められていたわたしの手を撫でていく。
「手袋をしている理由なんだが、」
ドアを開けてくれたバッキーに促され、先にエントランスに入ると後から入ってきたバッキーがそう切り出した。
『待って』
振り返ってバッキーを見据える。
バッキーはわたしの反応に驚いたのか困った目をして口を噤んだ顔をしていた。
『手袋をしている理由、ケリーさんは結局本当の理由は知らないんだよね?』
「?そうだ」
『なら、わたしにも言わなくて良いよ』
バッキーの眉間に徐々にシワが刻まれる。
『誤魔化しちゃうような理由なら、無理して言わなくて大丈夫。わたしが知っておかないといけない理由じゃないなら、バッキーが本当にわたしになら言ってもいいかなって思った時に教えて』
それが今じゃなくたっていい。
ただ、もし、もしもケリーさんは本当の理由を知った、ということであれば、わたしは多分モヤモヤしちゃうと思う。