【MARVEL】This is my selfishness
第5章 5th
似合っているんだけど、なかなか1人で飲んでる人が閉店時間まで居ることはない。大抵そういう人は何か訳あって、へべれけに酔っていたりしていることが多い。
「君と一緒に帰ろうと思って」
『え』
「言ったろ?防犯に俺をって」
『言っ…てたことあるね…』
初めてのお茶会の時に言っていた。
暴漢対策にバッキーなら何を用意するかという話を振った時に「俺」と。
そんな話覚えていたのね…。
『でも催涙スプレーだってあるし、引っ越してきてから何も無いよ?』
「今まで無かったからって今日もないとは限らないだろ。俺が居る時くらい送らせてくれ。帰るアパートは同じなんだから」
帰るアパートが同じと言われてしまうとぐうの音も出ない。
『こんな時間なんだし、』と言おうとしたが、そもそも仕事が不定期でお店に来るまでに仮眠も取ったであろう彼には無意味な気がした。
どうしたものか、と悩んでいるとカウンター内を清掃していたロンさんが顔を出した。
「いいじゃない、一緒に帰ったら。今日は店内も綺麗なもんだから時間通りに閉めれそうよ」
その言葉を受けて、バッキーは「ほらな」とでも言わんばかりの顔をした。
『…じゃあ、待っててもらおうかな…』
「ああ」
わたしの言葉に満足したバッキーは少し残っていたお酒を飲み干した。
『お待たせ──』
お店の出入口を閉めたため、特別に裏口から先に出ていたバッキーに声をかけようとした。
しかしその声をしっかり彼に届けることが出来なかった。
バッキーはポケットに手を突っ込んで、壁に背を預けて女性と話していた。
お店のホステスのうちの1人でロンさんが言っていた、ケリーさんだった。
扉が開いた音に気づいたのか、わたしの小さくなった声に気づいたのか、バッキーが振り返り、わたしの存在に気づいた。
「ミア」
『…お待たせ』
バッキーはケリーさんに「良い夜を」と軽く手を上げて挨拶をすると、ケリーさんも大人な微笑みでそれに返した。
なんだろう…。わたしを相手にしてる時とは違う2人の大人な雰囲気に胸が騒ぐ。