【MARVEL】This is my selfishness
第5章 5th
「本当に?それだけ?」
ロンバルドは何かを探るような視線を寄越してくる。
「他に何があるんだ?」
何を探っているかなんて簡単に分かる。分かっているが、わざととぼける。
とぼけたところで結果は分かっているのに。
しかしロンバルドはそれ以上を探ることはなく、「あっそ」と言うだけだった。
正直、今の距離感が心地良いと思っている。
期待されすぎず、期待しすぎず。
催涙スプレーを買いに行った帰りの時の気まずさはあの時だけで、ミアも普通に接してくれている。
ただ我儘を言えばそれが少し、気に食わないように感じることもある。
それは多分、俺を男として意識しなくなったのでは?という自分勝手なもの。
そう感じさせないようにあの時誤魔化すような言い方をしたのは自分なのに。
明確に言葉にできない気持ちを酒と一緒に流し込んだ。
しかしこの体では酔うことはない──────
お店が閉まる2時より前に最後のお客さんが、一緒にいたキャストさんと共にお店を出て行った。
所謂〈同伴〉というものだ。その辺は基本的にキャストさんの判断にロンさんは任せているらしい。
余程しつこいお客さん等でキャストさんが困る場合以外は。
ラストオーダーをお店が閉まる30分前に設定してあるため、ラストオーダー以降でお客さんが少なくなったり、全員帰った時はそこから掃除をする時間になる。
お店がお休みの時等に業者さんを呼んでお店全体を隈無く掃除をしてもらうが、毎日のちょっとした掃除も欠かせない。
主に厨房はルドルフさんともう1人のスタッフ、フロアはロンさんやわたし、時々キャストさんも手伝ってくれる。
近々バーテンダー兼ホールスタッフを雇おうかとロンさんが言っていた。
忙しい時はてんてこ舞いなので、もう1人くらいいた方がわたしもロンさんも助かるだろう、と。
そして最後のお客さん、というのは語弊があった。
バッキーがただ1人、カウンター席に残っていた。
『バッキー、もしかしてお店が閉まる時まで居る気?』
揶揄うように言うと「ああ」と肯定されてしまった。
「邪魔か?」
『邪魔って訳じゃないけど…』
1人でずっとゆっくりお酒を飲む様はとても良く雰囲気があって似合っている。