【MARVEL】This is my selfishness
第14章 12th
「フロアにも行くか?」
『うん。あとでちょっと行ってみたい』
わたしの視線の先に気付いたようで、同じようにダンスフロアを見る。
「壁際なら連れて行ってやる」
『壁際?』
なんで?と思ったけれど特に説明する気はないのか、その先はなかった。まあ、混ざれる気がしないわたしには壁際くらいがちょうどいいか、と納得したので特に気にしない。
そうこうしてるうちにお酒が2人分手元に置かれる。
『それじゃあ、』とグラスを持ってバッキーの方へ小さく掲げる。
『おつかれさま』とお互いのグラスを当てて小気味よくカチンと鳴らす。
1口飲んでいると先にグラスを置いたバッキーが何故か距離が近くなる。まるでわたしを囲い込むかのようにして両腕がカウンターに置かれる。
左腕はわたしの背中側を通り、カウンターに手を付き、右腕はカウンターに置いたグラスに。
えっと…なんで?
かなり密着している。
わたしの体の向きは先程まで横に並んでいたはずのバッキーを向いていた状態だから右向きに近い。だからわたしの右側はわたしを囲う彼に当たる。
『…あの、』
「ん?」
顔を見上げようにも近すぎて恥ずかしくて見上げれない。チラチラと視線を上に上げるくらいしかできない。
『ち、近くない?』
「そうか?」
とぼけるようにはぐらかすバッキーの横から他の人がお酒を注文しに割入ってきた。
「こういうことがあるから少しスペース空けておいたほうがいいだろ?」
…絶対今考えたじゃん、それ。じゃなかったらさっき「そうか?」なんて言ってないでそう言えばよかったじゃん。
けれどどう言えばいいか分からなくて、それ以上何も言えなかった。
それに……この距離、嫌じゃない。近くてドキドキしちゃうってだけで、嫌じゃないから困る。
とりあえず、違う話を振ろう。この距離に意識持っていかれすぎてぎこちなくなる前に。
『…あ、ねぇ、バイク持ってたの?』
彼がバイクに乗っているところを初めて見た。