【MARVEL】This is my selfishness
第12章 10th
辛い経験をしてきた人に、むしろきっと今でも苦しんでいるのに、生きていてくれてありがとうというのは良い事なのだろうか。
わたしが彼の罪悪感を肩代わりできる訳でも、少しだって引き受けることが出来る訳でもないのに。
ただ出会えてよかったと言うには、あまりにも彼の人生は重すぎる。
『わたしはバッキーの今までの人生を本当の意味で分かってあげることも、気持ちを汲むこともできない』
『でも、貴方が生きていてくれて、出会ってくれて、すごく嬉しいの』
話しながら、おさまっていた涙がまた出てくる。
泣きたいわけじゃないのに。
わたしが泣いたところで何にもならないのに。
「…ミア、」
わたしが握るだけだった彼の左手が少しだけ、握り返してくれた。
どんな顔をしているのか見ようにも自分の涙が邪魔をして、はっきりと見えない。
「……今まで話さなかったこと…話していないことを話してもいいか?」
『うん…他の誰かじゃなくて、バッキーから聞きたい。バッキーが話していいって思うなら……』
手の甲で涙を拭い、鼻をすすり、今度こそしっかりとバッキーの顔を見る。
その顔は優しいようで、険しいような、難しい顔をしていた。
彼は濡れているわたしの手を気にせず手に取り、指を絡ませるようにして手を繋ぐ。
ポツリポツリと今までにないほどゆっくりと小さく、けれど確かに1個ずつ、話していく。
キャプテン・アメリカ、いや、彼の友達として、スティーブさん。
スティーブさんとの出会いやどんなことを一緒にやってきたか。
彼と離別することになったときのこと。
ウィンターソルジャーであったときのこと。
「洗脳されていた時は俺としての記憶はなかったのに、洗脳が解けた今はウィンターソルジャーとして動いていた時の記憶はあるんだ」
それはどれほど辛いことだろうか。
本来の自分の記憶を封じ込められている状態で遂行した任務の記憶が、本来の自分を取り戻した今も頭の中を巡るなんて。
そんなの、地獄じゃないか。