【MARVEL】This is my selfishness
第12章 10th
沈む気持ちに静かな時間が流れる。
その暗く静かな沈黙を破ったのはバッキーだった。
「……俺が怖くなったか?」
その言葉は聴き逃してしまいそうなほどに小さく零されたものだった。
『…え?』
「聞いたんだろ?…俺は洗脳されていたとはいえ、人を殺してきた。それも数人じゃない。要人だけじゃない。俺は、人殺しだ」
そう話すバッキーの目は酷く悲しそうに、辛そうに、何かを諦めたような目だった。
スッ、と離れようとした彼の左手を両手で握り引き留める。
『ごめんなさい』
「謝るのは俺のほうだろ」
『…なんで?』
「ミアが話に出さないのをいい事に隠すみたいに、俺から言わなかった」
人を殺してるのに、浅ましいだろ、とわたしの手を振りほどこうとする。そうはさせない。
『違う。バッキーが謝ることじゃないし、わたしはそのことは考えてもなかったよ』
もう一度しっかりと彼の手を両手で掴み、握る力を強くする。
『話したくないことだったんでしょう?それを人から聞いたからって話すことにしてしまって…それもごめんなさい。あと、あとね、』
『…あなたは今まで言葉で言い表せないほど辛い道を歩んできたのに、わたしが簡単にこんな言葉で済ませていいことでは無いほどに嫌な思いをさせられてきたのに、』
意志を無視され、人格を消され、記憶を消され、時間を奪われ、人生を奪われ、洗脳に苦しまされ。
アレックスからたくさんのことを聞いた。
本人が意図して話さなかったことを、本人が居ない場で聞いてしまった。
それなのにわたしは、
『いま、この時代で、あなたに出会えたこと、それがすごく嬉しいって思ってしまったの。でもあなたに出会えたのはあなたがウィンターソルジャーだったおかげで…それは感謝していい事じゃないと思うのに、ウィンターソルジャーであったというのはどういうことか聞いたのに、』
『殺された人達のことを考えなきゃいけないはずなのに、わたしこそ浅ましいことに、貴方に出会えたことがすごく良かったって、嬉しいって、それしか……ごめんなさい、』
上手く言葉に出来ないことも、ごめんなさい。