第3章 家族の絆ー後編ー
「あとは…母上との約束でもあったから」
「約束?」
不思議そうな表情で桜を見るが、桜はニコッと笑ってその問いには答えず、ただ一言「姉としての責務を全うしたのよ」と伝えた。
「いつも私を守ってくれてありがとう。…生まれた時からずっと一緒で、隣に杏寿郎がいることが当たり前だった」
意見が違って家を飛び出してしまったけれど、心配してくれていたからだってこと、ちゃんと知ってるよ。
もう数年前になるのかぁ、とあの頃のことを思い出して苦笑する。
「…千寿郎と父上のこと、よろしく…ね」
いつか家族みんなで仲良く暮らせる日が来ると思ってた。
けれど…鬼殺隊にいる以上、そんな当たり前の日常が来なくなるのはよくあることだ。そしてそれは名門とはいえ煉獄家も例外では無い。
「ねえ、杏…寿郎」
「何だ?」
「…私たちが姉弟じゃなくて、赤の他人だったら……」
ゆっくりと目を閉じて、そしてもう一度杏寿郎を見つめる。
「きっと私は…杏寿郎に恋をした」
「…それは光栄だな」
困ったように笑う杏寿郎は年相応で、少し可愛いな、と思ったのは内緒だ。
「杏寿郎、幸せになってね。好きな人と結婚して、温かな家庭を作って…私の分までどうか生きて」
「……っ、約束したじゃないか、死なないって。あの時の約束を…君は破るのか?」
約束は守るためにあるものだろう……?
「……ごめんね。約束、守れなくて…ごめんね」
目の前が段々霞んできて、痛みも感じない。
「…もしも、輪廻転生というものが本当にあるのなら…私はまた杏寿郎の双子として生まれてきたい」
桜の言葉に杏寿郎は大きく目を見開いた後、フッと優しい表情で微笑んだ。
「俺もだ。俺も、生まれ変わってもまた桜と双子がいい」
杏寿郎の言葉に桜は嬉しそうに笑った。
「杏寿郎…、大…す、き……」
その言葉を最後に、桜は眠りについた。
それを見届けた杏寿郎の瞳からは大粒の涙が溢れ出て、ポタポタと桜の頬を濡らしていく。
「俺も大好きだ、桜……」
約束しよう。
君が見守ってきた三人の少年たちを今度は俺が見守っていくと。
例え柱を続けることが難しくとも、立派な剣士に育て見守るくらいならできる。
だから君も、どうか見守っていてほしい。