第3章 家族の絆ー後編ー
「炭治郎くん…、前にも言ったけど、私は禰󠄀豆子ちゃんを信じてる。これからもきっと…辛いことがたくさんあると思うけど、それでも前へと進んでいってほしい」
「桜、さん」
「きっと禰󠄀豆子ちゃんは人間に戻れる日が来るから、だから…頑張って」
ありきたりな言葉しか言えないけれど、と力無く笑う姿が痛々しくて、もうすぐお別れなんだと思うと悲しくて涙が止まらなかった。
「欲を言えば…、人間になった禰󠄀豆子ちゃんとお話ししたかったなぁ…」
「…きっと禰󠄀豆子も、同じ気持ちです」
桜は炭治郎から伊之助へと目線を変える。
「桜……」
名前を呼ばれた桜は大きく目を見開いた後、嬉しそうに笑った。
「嬉しいなぁ、初めて間違えずに名前を呼んでくれたね」
なんでいつも“煉子”って呼ばれていたのか謎だったけれど、杏寿郎の“ギョロギョロ目ん玉”よりはマシだからいいか、と諦めていたのだ。
「…約束、守ってね」
真剣な目で伊之助を見る桜。“約束”とは、桜の身に何かあったとき、代わりに仇をうってほしいと言っていたあの約束のことだ。
「…俺は親分だからな!子分との約束は絶対に守るぜ!!」
「うん、信じてる」
ふう、と一呼吸おいて炭治郎と伊之助を見る。
「柱たちもね、最初はみんな同じなのよ。中には例外もいるけれど、大切な仲間を失って、打ちのめされて、悔しい思いをしてる。そうやって成長してるの」
「………………」
「炭治郎くんも伊之助くんも…善逸も強いよ。十二鬼月の下弦ノ壱を倒したんだもの。…自信を持って。
……あなたたちと一緒に過ごした時間はとても楽しかった。ありがとう」
「桜、さんっ…!」
「桜!」
ギュッと握り拳に力を入れて俯き涙を流し続ける炭治郎と、上を向いて涙を堪える伊之助。
陽光が桜の鳩尾に貫通していた猗窩座の手を消し去り、傷口から血が溢れ出てくる。
目線を杏寿郎へと移すと、杏寿郎は涙目でこちらを見ていた。
「父上と千寿郎には、もう…言いたかったことは伝えてあるの。だから、あとは…杏寿郎だね」
「……っ、桜、なぜあの時俺を…」
支える手に力を入れて問う杏寿郎。そんな杏寿郎を見て苦笑する。
「言ったよね?守りたかったって」