第3章 家族の絆ー後編ー
「逃げるな卑怯者!いつだって鬼殺隊は鬼に有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!」
陽光から逃れるように森の中へと身を隠しながら走り去る猗窩座に向かって炭治郎は大声で叫ぶ。
「お前なんかより煉獄さんと桜さんの方が強いんだ!お前の負けだ!二人の勝ちなんだ!!」
うわあああ!と泣き叫ぶ炭治郎に思わず笑みが漏れる。
「…炭治郎くん、それ以上叫んではダメよ。傷が開いちゃう」
「……!桜、さん……」
「最後に少し、お話をしよう。…伊之助くんもこっちにおいで」
炭治郎と伊之助は涙を流しながら桜と杏寿郎の方を向き、ゆっくりと近づく。
桜は杏寿郎に支えられながらその場に腰を下ろした。
「桜さん…、し、止血を、止血をして下さい」
「……もういいの。私たちのために泣いてくれてありがとう。どうしても…炭治郎くんに伝えたいことがあって」
「俺のことより止血を…」
「私はもうすぐ死んでしまうから、お願いだから話を聞いて…」
そばで支えている杏寿郎も、もう助からないことが分かっているからか、歯を食いしばって俯いている。
「ヒノカミ神楽のことだけど、私や杏寿郎の生家…煉獄家に行くといいよ」
「煉獄、家に?」
「…ヒノカミ神楽ではないけれど、日の呼吸について書かれている炎柱の書があるの。以前父に聞いたことがあって…、“始まりの呼吸”の話をね」
「日の、呼吸……」
桜の言葉を一語一句漏らすまいと真剣に話を聞く炭治郎。
少し前にしのぶに“火の呼吸”について何か知らないかと聞いたことはあったが、まさかここで桜の口から“日の呼吸”と言う言葉が出てくるとは思いもしなかった。
そこで桜が列車の中で何か言いかけていたことを思い出す。結局鬼が出てきて話を聞くことはできなかったのだが、きっと日の呼吸の事を話すつもりだったのだろう。
「ごめんね、私はあまり知らなくて…。日の呼吸については父上が多少は知ってると思うのだけど……」
「うむ、話を聞くのは難しいだろうな!」
申し訳なさそうに言う桜を見て、炭治郎は気にしないでほしいと伝えた。