第3章 家族の絆ー後編ー
「私は鬼にはならない」
例え残り僅かな命だとしても、鬼になる選択肢など持っていない。
目を閉じて「ふぅ…」と一息吐く。そしてキッと前を見据えて小さな声で呟いた。
「…心を燃やせ」
足を踏ん張り、全身に力を込めた。
猗窩座の腕が鳩尾を貫通しているためかなりの至近距離だが、力が弱い分こちらの方が都合がいい。
最後に…最後に出す技は“この技”と決めていた。
その為にたくさん練習した。失敗は許されない。
お願い、最後だから…これが最後だから……、もう少しだけ頑張って、私の身体…!
「…炎の呼吸、奥義」
「!!」
「玖ノ型、……煉獄っ!!」
威力のある技を至近距離で放ち、刀が猗窩座の首に食い込むがビクともしない。
…知ってたよ、私の力では上弦の首を切ることはできないって。
どうしてこの男は女を食べないのよ。
私を食べてくれれば、私の体に回った毒でこの男を弱らせることができたのに。そうしたら、杏寿郎が首を切ってくれたはずなのに……!
「くっ……!」
上弦ノ参に私の力は通用しない。
悔しいっ……、悔しいよっ!!
「お願い杏寿郎、力を…力を貸して!!」
「あ、ああ!勿論だ!!」
後ろから抱きしめるように桜の手に合わせて杏寿郎の手が被さる。そして桜と合わせるように力を入れた。
「心を燃やせ!うおおおおおおおおお!!」
杏寿郎が力を貸してくれている。ここで諦めるわけにはいかない。
刀が少しずつ頸を斬っていくが、それを許すほど上弦ノ参は甘く無い。
空いているもう片方の手で攻撃しようとしてきたが、それを杏寿郎が阻止する。
このままではまずいと思ったのか、鳩尾に食い込んでいる腕を抜こうとするもそれは叶わなかった。
「どうなってるんだ?腕が痺れて言うことを聞かない…!」
猗窩座の貫通している片腕は黒く変色してただれており、使い物にならなくなっている。
頰に暖かいものが流れた。自分の血に混じっている毒が付着しただけどはいえ、確かに効いているのだ。
「離さないっ!絶対に、絶対にこの手だけは離さない…!あなたの頸を斬るまでは!!」
「離せぇぇ!!クソッ、お前の身体は毒の塊か…!」
もうすぐ夜が明ける。
それに気付いた猗窩座は、自分の腕と桜の刀を折って森の中へと身を潜めるように逃げて行った。