第3章 家族の絆ー後編ー
猗窩座の手が杏寿郎の鳩尾へ伸びようとしているのが分かった時点で、考えるよりも先に身体が動いた。
“守るものが多い杏寿郎にも、守ってもらう権利はあるのです。だから…一度だけでいい、一度だけでいいからあの子を守ってあげてね”
母との約束を今こそ果たすべきなのだと…、そしてここで動かなければきっと後悔する、そんな気がした。
杏寿郎を守るためならこの体の痛みもどこへやら。今までで一番速いんじゃないかと言うくらいの速度で杏寿郎を守るように二人の間へと入った。
「……っ!!」
その瞬間鋭い痛みが全身を襲う。
チラリと後ろを見れば、杏寿郎は何が起きたのか分からないとでも言うような驚いた表情をしていた。そしてそれは猗窩座も同様だ。
風が吹き、雲で隠れていた月が顔を出す。
土埃が風に流され、月明かりに照らされた三人の姿は何とも残酷な光景だった。
「あ、ああ…、桜さん!!」
「煉子……!」
衝撃的な光景に炭治郎も伊之助も桜や杏寿郎のそばへとすぐにでも駆け寄りたかったが、まだ戦いは終わっていないため近寄ることができなかった。
「……杏寿郎、大丈夫?」
杏寿郎は目の前の光景に動揺していた。
自分が受けるはずだった攻撃は届いていない。そして目の前には、猗窩座の攻撃をもろに受けた己の半身とも言える片割れ、桜の後ろ姿。
何故だ、何故こうなった……?
嫌な汗が杏寿郎の背中を流れる。
弱きものを守るために今まで沢山の人たちを守ってきた。だが、一番に守りたかった人は紛れもなく目の前にいる桜なのだ。
「大丈夫じゃないのは桜だろう!何故俺を庇った!!」
杏寿郎の悲痛な叫びを聞いて桜は困ったようにフッと笑った。
「……守りたかったから」
「……っ!!」
「…杏寿郎を、守りたかったの」
母との約束を果たすためでもあったが、きっと、そんな約束が無くても桜は杏寿郎を守るために動いていただろう。
「どこまで邪魔をすれば気が済むんだ、お前は!!」
もう少しで杏寿郎を倒せると思ったところで桜が割り込んできたためか、猗窩座は苛立っていた。
「俺がこの手を抜けばお前は死ぬ。さっきも言ったが俺は女を殺す趣味はない、お前も鬼になれ!」