第3章 家族の絆ー後編ー
人間は鬼と違って体力にも限界がある。受けた傷も決して直ぐには治らない。このまま戦っていたら間違いなく桜と杏寿郎は上弦ノ参に負けてしまうだろう。
そう確信した桜は、ここで二人やられてしまうくらいなら、カナエの仇を討つためにずっと前から桜自身の体に溜めていた藤の毒を使おうと決意する。
どの道自分の命を差し出して仇を討つつもりでいたのだ。相手は違うが、ここで柱二人失うよりは己を犠牲にして杏寿郎に斬ってもらった方がいいだろう。
杏寿郎が無理でも炭治郎や伊之助もいる。そう思い、話を切り出そうとした時だった。先程の会話を猗窩座は続ける。
「柱を葬り去れとは言われているが、女を殺す趣味はない」
「そして俺は女は喰わない」とそうハッキリと言ったのだ。
その瞬間桜の頭の中は真っ白になった。
“女は喰わない”
つまり、身体に溜めた毒を使って上弦ノ参を葬ることは出来ないと言うことだ。
「俺は杏寿郎と二人で戦いたい。だから女、お前は邪魔だ」
「……っ!」
猗窩座が素早い動きで攻撃をしてきたと同時に桜の身体は遠くへと吹き飛ばされた。
「桜……!」
猗窩座の力は凄まじく、受け身は取ったが吹き飛ばされた身体は列車へと叩きつけられる。
「桜さん!大丈夫ですか?!」
「煉子!」
近くにいた炭治郎と伊之助が心配してそばに寄ってくる。
叩きつけられた身体は痛いが、正直それよりも自分の計画が上弦ノ参には通用しない事を知り、どうすればいいのかと焦りを感じていた。
「桜、さん?」
「…私は大丈夫。それよりも杏寿郎は……」
猗窩座の目的は杏寿郎だけのようなので、早く自分はどう動くべきか考えなければ…と頭の中で考えつつ杏寿郎の方を見た。
日々訓練に勤しみ、あんなにも努力していた杏寿郎でさえ、血だらけで身体はボロボロだ。そんな杏寿郎は猗窩座と距離をとり、技を出そうとしていたところだった。
「炎の呼吸 奥義」
対して、猗窩座も何か大きな技を出す体勢になっている。
「玖ノ型 煉獄!!」
「破壊殺・滅式!!」
二人の動きは決して遅くはない。時間で言えばほんの数秒程度だ。
なのに何故だろう。
とてもゆっくりで、猗窩座の攻撃がハッキリと見えた。
「杏寿郎!!」