第13章 変わりゆく日常と濃くなる影
それからも、任務と修行と治療に追われる日々で、悪夢のあの字も見る事なく健やかに(?)過ごしている。
で、今日を最後にマヤちゃんの治療は完了となる。
「エニシさん、ありがとう。外ってこんなに気持ちいいのね!」
「君のおかげだ。本当に感謝する。」
親子でお礼を言われて、どういたしまして、と私は返す。
「すんなり治って良かったです。」
多少はぶり返しとかあったものの、概ね順調に回復していった。
今はすっかり普通の子と変わらない生活が出来る。
まぁ、それはともかくも。
「畑はどうなってますか?」
ムナの実のせいで作物が育てられない現実をどうにかしようということで私が出した案は、居住区をぐるっと岩で囲ってしまおうという事。
そして、今ある土をまるっと入れ替えるのだ。
ということで、里の方から時々人手を借りて、まあまあな厚さの溝を掘り、そこに煉瓦の素を流し込んでいく。
それを一ヶ月程かけて作業してるのだ。
「今日最後の箇所に煉瓦を流し込めば完了だ。これで上手くいけばいいけどな。」
「土は入れ替えました?」
「あぁ、そっちはもう入れ替えてある。この前種を植えたばかりだ。」
「多分、上手くいきますよ。土を遮断しちゃえば防げる筈ですから。」
これも前世テレビで見た知識だ。
木が、冬に枯れても春になるとまた息を吹き返すのは、根っこが栄養のやり取りをしてるから。
微細な菌がキーパーソンで、土の中に形成されてる菌のネットワークによって栄養を蓄えてる針葉樹から栄養が細くなった広葉樹に栄養を分け与えてるんだって。
不思議だよね。
他の植物も多少なりともそういうのがあるんじゃないかな。
だから土を深く遮断しちゃえば、こっちには侵食してこないんじゃないかと思ったんだよね。
あとは居住区に、枝一つ殻一つでも持ち込まない事。
なんたって、毒性の強い植物ですから。
因みに、ムナの痺れ薬製造は居住区外でほったて小屋を幾つか建てて、そこで村総出で取り掛かってるみたい。
「マヤを救ってくれたんだ。きっとこの地も君は救ってくれるだろうさ。」
「大袈裟ですよ。私は知ってる事を伝えただけですから。」
「あとは夏の収穫を待つのみか。」
「期待しててください。」
「あぁ。」
私達は笑い合う。