
第3章 待っていた悪夢

家につく頃には、空がすっかり紫色に染まっていた。
家に入っても声をかけてくれる人はいない。お母さんはもう夕食を食べ終えたようで、台所のシンクには食器が乱雑に置かれていた。
溜め息が出そうになったところを慌てて抑える。
ここでお母さんに溜め息を聞かれる訳にはいかない。
もし聞かれたなら、お母さんは何も言わずにボクをぶつだろう。
そして殴った後にボクを見てこ言うのだ。
「さっさと洗え」
そしてまた殴るのだ。
だから絶対に聞かれてはならない。
静かに冷蔵庫の中身を確認する。その中から卵とベーコンを取り出してフライパンで炒める。
コップに牛乳を注いだら夕食完成。一人で静かにとる夕食は別になんの違和感もなく日常的な風景としてなってしまった。
食べ終わったら食器を洗う。冷たい水がまた手にしみた。
洗い物を全て片づけ終えると、お母さんがゆらり、とまるで幽霊のようにリビングルームに入ってきた。
その刹那、全身が強張るのがはっきりと分かった。
足が動かない。
目が逸らせない。
声が出ない。
喉が引きつる。
額に嫌な汗が流れるのが分かった。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
お母さんはそのままボクの方へ歩いてくると無言でボクの腕を引く。と、思いっきり腕に爪をたてた。
「!!!」
悲鳴を上げる前に口を押さえつけられ、体ごと床に押し付けられた。
その衝撃で背中に走る痛みに涙目になりながらも必死の抵抗を試みるが、女とはいえ相手は大人だ。
しかもここ数週間、ろくなものを食べていないボクの細い腕の力ではかなうはずがなかった。
腕を踏みつけられる。続いて右肩。
「_______っ!!」
悲鳴を上げる暇もなく、左の頬を殴られ、手を踏みにじった。
そのまま胸ぐらを掴んで壁に押し付ける。
「・・・やめ・・て・・・」
震える喉を押さえつけるように必死に声を絞り出す。
「・・・・・・」
そんな声がお母さんに届くはずもなく、暴力は止むことは無かった。
(お母さんの・・・お母さんの暴力はいつか止まる・・・)
足が、腕が、首が・・・震える。
(大丈夫・・・。永遠に続く訳じゃない・・・・。)
うっすらと下卑たようなぞっとする笑みを浮かべながらお母さんはボクを殴る。
