第16章 東京卍リベンジャーズ・佐野万次郎
「……やめろ………オレに触ンな…」
込み上げてくるものを必死に堪えながら
レイナの手を払って背を向けた
「………もう……帰れよオマエ…」
冷たい言葉を
ワザと吐き捨てるように言う
『……』
ソファから立ち上がる気配を背後に感じ
唇を噛んだ
(……出るな………まだ…出るな……)
喉が詰まってこれ以上声が出せなくなった俺は
レイナが居なくなるのをただじっと待っていた
その時
背中全体を
フワリと何かが包んだ
首元に細い腕が巻きついてきて
俺は
レイナに抱きしめられているのだとわかった
「………っ……何…してんだよ…………離れろ…」
『……』
「…帰れって言ってんだろ………もう…ひとりにしてくれ…」
『……』
レイナは何も言わず
背中に額を押し付けるようにして首を横に振っている
『……っ…く………………ぅぅ……』
しゃくり上げるような声が聞こえてきて
俺は
それ以上抵抗するのをやめた
「…………ッ……クソ……」
堪えきれなくなった涙が
後から後から込み上げてはポロポロとこぼれ落ちていく
嗚咽が漏れそうになって
咄嗟に口元を強く押さえた時
レイナの声が聞こえた
『…大丈夫。…大丈夫だよ万次郎……あなたが幸せにできる人はたくさんいる。……一緒に居て幸せだって、圭介も思ってたはずだよ………万次郎のこと…" すごく大切な友達だ " って……昔から、いつも言ってた…』
言葉と共に
彼女の腕に力がこもっていく
『……万次郎?………泣きたい時は…素直に泣いていいんだよ…………………大丈夫、………私がちゃんと…なぐさめてあげるから…』
ぬくもりに包まれながら
俺は静かに目を閉じた
(……こんな風に抱きしめられたのは……一体、何年ぶりだろう…)
忘れかけていた
遠く、優しい記憶
幼い自分を抱きしめて " 大丈夫だよ " と言ってくれたあの人は
もう、手の届かない場所へ行ってしまった
失ったと思い、諦めていた
けれど
心の奥ではずっとずっと求め続けていたあの安らぎに
再び
出会えたような気がした