第6章 【第四講 後半】マヨネーズは万能食だけど恋の病には効きません
「だから言ったでしょ。交代しろって」
右肩を押さえながら、土方はベンチへと戻って来た。
仁王立ちした○○に出迎えられ、土方はバツが悪そうに顔を逸らした。
続投を申し出ておいてこのザマは情けない。
「言っとくが、九回は打たれてねーぞ」
土方はどっかとベンチに腰を下ろす。
十四点は取られたが、○○が交代を要求した九回は二人を抑えた。失点も喫していない。
「そうじゃなくて、そんなになるまで投げるなって言ってんの」
八回までで既に土方の肩が悲鳴を上げていたことに、○○は気づいていた。
九回表をすぐに終わらせれば問題はなかっただろうが、相手は強豪の集英高校だ。
三者凡退で済むはずがない。
「九回だけでだいぶ悪化させたでしょ」
一人目は一球で打ち取れたが、ピッチャーゴロだった。一塁への送球で負担がかかってしまった。
二人目はなかなか打ち取れなかった上に、捕球しようと腕を伸ばしたことで肩に変な力を加えてしまった。
完投する気でいた土方だったが、こうして交代を余儀なくされた。
「――ッ」
土方は冷たさに顔をしかめた。
「一人で背負い込むことないじゃない」
背後に回った○○が土方の肩に氷嚢を乗せていた。
「野球はチーム戦なんだから。苦しい時は仲間に任せて引き下がりなさいよ」
八回で素直に降りていれば、ここまで状態を悪くすることはなかっただろう。
「仲間だァ?」
土方は氷嚢を振り払った。
「苦しい時にシネなんて声援送る奴のどこが仲間だ」
○○は眉間に皺を寄せ、土方を見下ろす。
「死ね? 仲間にそんなこと言うわけないじゃない」
土方とは委員内で対立しているが、今は共に勝利を目指して戦う仲間だ。
全員を平等に応援している。
「じゃあ、あの言葉は……」
投球練習が終わり、試合が再開される。
リリーフは本物の野球部員である茂野。
「S・H・I・N・E! シ・ゲ・ノ!!」
――輝け、茂野!
○○がベンチの前から声援を送ると、茂野は手を上げて応えた。
「茂野くんになら、土方くんの後を任せられるよ」
「誰に言ってんだ。向こうは本物の野球部員だぞ」
土方は氷嚢を拾い上げ、右肩へと乗せた。