第11章 【第七講 後半】酸いも甘いも苦いも辛いも青春の一ページ
「□□、明日のことだが……」
良ければ俺と一緒に見廻りを……じゃなくて、一緒に観光をしないか……二人で。
もう一言だ、頑張れ、俺。と土方は自分に活を入れる。
だが、土方の希望は脆くも砕かれた。
「明日はお妙さん達と映画村の方に行くから、そっち方面の見廻りは任せて」
○○は親指を上げる。
「明日……志村姉達と出かけるのか?」
「うん。お妙さんと神楽ちゃん。すんごく楽しみ」
江戸時代。
修学旅行先を決める話し合いの最中、○○は行きたい場所として挙げていた。
本物の江戸時代には行けないが、気分を味わえる場所が京都にはある。
「土方くんはやっぱり、近藤さん、沖田くんと見廻る予定でしょ」
「あ、ああ、そのつもりだ……」
「行くのって、市街地?」
「ああ……たぶんな」
本当は、自由散策を三人で過ごす予定など立てていない。
予定は立てていないが、恐らくそのメンツにはなるだろう。
土方が自分の意志で彼等と別行動を取ろうとしなければ、の話だ。
「市街地は輩が多いし、小競り合いが起こらないように、この辺りは任せたよ」
「ああ……」
彼の人の 心つれなく 見え紛ふ 雲ゐに隠れし 我が慕情。詠み人、土方。
ライトアップされた眩い光とは裏腹に、京の深い闇が土方の顔を黒色に染める。