第11章 【第七講 後半】酸いも甘いも苦いも辛いも青春の一ページ
「ったく、どいつもこいつも浮かれてやがる」
背後からの声に、○○は振り返る。
土方は○○の横に腰を下ろした。横に並んで、ではなく、離れた隣のベンチ。
桂のように猪突猛進に行けない所が、奥手なこの男の性。
「騒ぎを起こしそうな奴がいたら、縄付けて縛っておくべきだな」
ムードの欠片もない会話。
言いたいことはこんなことではないと、自分が一番よくわかっている。
言いたい言葉は喉を通らず、土方の体内でグルグルと渦巻いている。
「騒いだっていいじゃん」
土方が一人、悶々と葛藤していることも知らず、○○はのんびりと口を開く。
「せっかくの修学旅行なんだから」
土方は目を丸くする。
規律規則を重んじる○○にはそぐわない発言だ。
「高校生活、最後の旅だよ。羽目くらい外させてあげようよ」
このクラスメイト、気の置けない仲間。
来年には皆別々の道を行き、二度と同じメンバーで集まることは出来ないだろう。
だから、思う存分、楽しめばいい。
「本当に問題を起こしそうになったら、私達で止めてあげればいいんだから」
そのための風紀委員だよと、○○はほのかに口元を綻ばせる。
学校で見る○○とはまるで違う。儚げな雰囲気。
淡い光で照らされたその表情は、大人びた憂いを醸し出している。
それが、土方の目にしか見えない幻想の○○だとしても。