第10章 【第七講 前半】修学旅行のハプニングはベタ中のベタでよし
「うるせーんだよ、てめーら」
再び襖が開く。
今度こそ、入って来たのは教師。担任の銀八だった。
(ヤバい、ヤバい!)
○○は布団に潜って身を隠す。
持ち物の件では見逃してくれたが、男子の部屋を訪れていると知れたら見逃しはしないだろう。
男子と女子がイベントを通じてキャピキャピと仲良くすることが誰よりも大嫌いな担任である。
(ぐえ!)
布団の上から圧力を感じ、○○は息を詰まらせる。
(乗っかってんの、誰だァァァ!!)
二言三言、銀八の苦言が聞こえたあと、部屋が静かになった。
無音の空間。
「……いや、もうどいてやれ、総悟」
「へーい」
その声と共に、○○にかかっていた負荷がなくなった。
○○は布団から這い出た。
「乗ってたの、沖田くん!?」
飄々とする沖田の顔を○○は睨み上げる。
「死ぬかと思ったよ!」
「先生に見つかんねーように、隠してやったんだろィ」
妙に膨らんだ布団があれば、銀八の目に留まる。
そうならないよう、沖田はその上に腰を下ろした。
が、恐らく隠すよりも、女の上に腰を下ろすという行為の方が沖田にとっては重要だ。
「もうこんな時間か」
近藤は時計を見上げた。
土方、山崎の二人と交代で見廻りに出る予定だったが、枕投げに熱中して時間が経ってしまった。
「どうした? □□」
未だ布団の上に座ったままの○○に近藤は声をかけた。
足首に手を当て、顔をしかめている。
「布団に潜った時に足捻っちゃったみたい」
銀八の姿を見て慌てた○○は、らしからぬ失敗をした。
「すぐに治るとは思うけど」
「蹴り入れりゃ、一瞬で治るんじゃねーか?」
「やめろォォォ!!」
足を振りかぶる沖田を○○は大声で制する。
「これじゃ見廻りは無理だな」
○○は無念の表情を浮かべる。
「しばらく安静にした方がいいな。ここで少し休んでから部屋に戻った方がいい」
「うん」
近藤は沖田と数人の風紀委員を引き連れ、ホテル内の見廻りへと向かった。