第10章 【第七講 前半】修学旅行のハプニングはベタ中のベタでよし
時刻は午後七時半過ぎ。
襖が開いた。騒ぎ過ぎて教師が注意しに来たのかと思ったが、入って来たのは土方だった。
彼は入って来た途端に枕を顔面に食らった。
乱れ飛ぶ枕の合間を縫って、土方の怒号が飛ぶ。
ここに集う風紀委員達は、見廻りのために待機していた。
にも関わらず、このどんちゃん騒ぎ。
手本となるべき生徒がこのザマでは示しがつかない。
「ったく、てめーらは……ッ!!?」
部屋をぐるりと見まわした土方は、ある一点を見て体を強張らせた。
嫌な汗が流れる。血圧が上がる。
土方は見た。
障子の後ろから目を覗かせる、幽霊のように佇んでいる女を。広縁から覗く目。
出、出た。
と思ったが、すぐにそれが見知った女だと気がついた。
「□□!?」
見えたのは、枕投げに参加できず、不機嫌になっていた○○の暗い顔。
「お前、こんな所で何してんだ!!」
血圧が平常値へと低下していく。
声が出なくてよかったと、土方は心底思う。
○○を幽霊と勘違いして悲鳴を上げたとなれば、末代までの恥。
「何って、見廻りの待機だよ」
「待機ってお前、お前は後から合流って言っただろうが!」
男子の部屋は女人禁制。
見廻りの交代時間に、○○は落ち合うことになっていた。
「いいじゃん、別に部屋に来てても!」
○○は障子から飛び出すと、枕を拾ってアンダースローで土方に放った。
「土方さん、ヒット。命、あと一個でさァ」
土方のこめかみに青筋が伸びる。
「てめーの命、一気に消したらァァァ!!」
土方は布団を持ち上げ振り回す。
「ぶわはは! 体がガラ空きだよ!!」
「甘ェよ、□□!」
「カニばさみだとォ!?」
「ジミーも俺等に加勢しろ! トシを集中的に狙うぞ!!」
見廻りから戻った土方と山崎を加え、バトルはヒートアップ。