第17章 この話はもう終わり《後編》◉山田ひざし※
予告通りに相澤先生が退室してから数時間、西陽も窓から消えかけている
薄暗さを感じ、電気を付けようと立ち上がると、静まり返った部屋にマイク先生の欠伸が響いた
「わり、サンキューな」
「マイク先生、本当に大丈夫ですか・・?」
いつもより格段に疲れて見えるその表情、コスチュームを脱いだ彼は口数も減ってしまうのだろうか、そんなことをぼんやりと考える
「何か飲み物買ってきましょうか、」
「ダイジョーブだって」
「できればそろそろ帰って、寝た方が」
昨日ラジオでしたもんね、そう言って覗き込んだその顔、一瞬だけ揺れた瞳がふいと逸らされる
「それか仮眠室の鍵、開けましょうか?」
まだお帰りになれないなら少しだけでも、壁際の鍵の保管庫に向け一歩足を踏み出すと、背後から小さな舌打ちが聞こえた
「・・そっちこそ寝た方がいいんじゃねェの」
昨日はアツーい夜だったろ?、突然の冷たい眼差しに思わず詰まった声、固まって動かない足が床に張り付いている
「え・・?」
「見たぜ、ホテルから出てくるとこ」
言ってくれりゃあいいのによ、揶揄うような明るい声が私の鼓膜を揺らして
途端に冷たくなっていく指先をぎゅっと握りしめる
「道端で抱き合うくらい、足りねェってか」
「ち、ちがいます!相澤先生はただ私を・・っ」
「隠さなくてもいいじゃねェか、おめでとさん」
アイツも満更でもねェ顔してたな、えらくご機嫌ってヤツ、そう言った彼が楽しそうに片方の眉を上げた
「オレはこれで完全に用無し、お幸せにな」
「・・っ」
肩の荷が降りるぜ、目も合わされずに発されたその言葉に胸の奥が音を立てて痛んで、漏れ出た嗚咽を呑み込むように歯を食いしばる
「いくらなんでも、ひ、どいです・・っ」
どうしようもない想いが涙となって溢れ止まらない、沈黙を貫く彼は暗いままの画面に目線を落として
「し、つれいします」
ごしごしと目を拭うと手の甲がきらきらと光る、彼を想いながら選んだその色がじわりと透明の中で揺れて
思い切り唇を噛んだ私は床の鞄を掴むと職員室から飛び出した