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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第16章 この話はもう終わり《前編》◉山田ひざし


いつからだろう、

「アイツがさ」と話す彼に、貴方自身のことが聞きたいと思い始めたのは

長年の友人に思い切り泣きついた居酒屋を後にして、眩しいほどの明かりに埋め尽くされた夜道を歩く

いつもより飲みすぎた自覚はある、だってまだ全然泣き足りない、真夜中過ぎの時刻を確認すると私は人混みの中へと靴音を響かせた


「・・安心して恋人ごっこ、だって」

ひどい人、呟いた声が喧騒に消える
勇気を出して昼食に誘ってみれば、全く意識されていないあの反応


「なのに、めぐちゃんめぐちゃんって・・!」

呼ばれるたび私がどんな想いで居るかも知らないで・・!
助手席の革のシートの感触、転がした飴玉の甘さ、そして彼の名前を紡いだ自分の声

差し出されたその手の感触を思い出すだけで視界はまたゆらゆらと滲んで、どうしようもなく燻る想いが苦しくて私は歩みを止めた







「おねーサン、だいぶ酔ってんじゃん」

不意にかけられた見知らぬ声、馴れ馴れしく抱かれた肩を振り解こうと腕を挙げれば、厭らしい薄笑いが耳元で響く


「このまま俺と過ごそうよ」

「ちょ、っ離して・・!」

肩を抱かれたまま強引に引き摺り込まれた路地裏、表とは違うネオンが並んでいる
下品に光る看板の横、外からは見えにくい出入り口のドアの開閉の音がした


「きゃ、やめ・・っ!」

「大人しくしろって」


敵わない力に小さく悲鳴をあげた瞬間、冷たい空気に冴えた布の音がして
暗闇の中、静かな着地音を響かせた彼がゴーグルをぐいっと押し上げた





「ったく、何やってるんですか」

「あ、いざわ先生・・!」

「同意の上なら止めませんが、どうなんです」

助けを求めて必死に首を振ると彼はポケットからヒーロー免許証を取り出して、私の肩を抱く男性を鋭く睨んだ


「通報されたくなきゃ、お引き取りを」

低く発されたその声が私に届くよりも早く、ふらりと自由になった身体
情けなくアルコールの残る足、がくんと力が抜けると真っ黒のヒーロースーツが私を抱き留めた


「ぅう・・っ、あい、ざわ先生ぇ」

「、はぁ・・ったく、」

なぜこんな所に居るんです、呆れた溜息を溢した彼がふらつく私の身体を支えて顔を顰める
タクシー代は自分で出せよ、そう呟いた彼は器用に私をタクシーに乗せると面倒そうに自身も後部座席に乗り込んだ
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