第13章 お決まりでしょうか◉共通ルート《後編》
鞄を握りしめたまま倒れ込んだ白いシーツ、
溢れ出るそれがこぼれないようにと必死で天井を睨みつける
アパートに戻れば轟くんに会ってしまう、今日はもう誰とも会いたくなくてチェックインしたビジネスホテルの部屋
倒れ込んだ拍子に鞄の中身が散らばって、顔のすぐ横に電源の切れたスマホが落ちていた
今頃爆豪くんは何を思っているのだろうか、轟くんはアパートの前に来てしまっただろうか、
すべてを忘れたくて、震えそうになる唇を噛んでぎゅっと目を閉じる
腕を伸ばして黒い画面をできるだけ遠ざけたくせに、二人を恋しく思う最低な私はいつだって電源を入れる隙を狙っているのだ
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リカバリーガールが退勤してから早二時間、今日も夕日は沈むのを急いでいるみたいだ
薄暗い保健室の照明を最小限にして、私はぼんやりとデスクに向かっている
教室や廊下にはまだ生徒が残っているのだろう、
時折聞こえる賑やかな声に、私は孤独を紛らわしているのかもしれない
あれからずっと電源を入れていないスマホは、
大人しく鞄の底に寝そべっているはずだけれど
「・・そういうわけにも、いかないよね」
ふうと息を吐いて取り出した黒い画面が蛍光灯に反射して、光る
正面を覗き込むと、我ながらひどい顔が映っていた
長押しすると息を吹き返したそれが、不在着信の数だけ私の手を震わせて
何件もの留守番電話を知らせる通知が表示され、ずっしりと重くなったような端末を握りしめた時、
保健室の外に凄まじい地響きと女子生徒の黄色い声が聞こえた
顔を上げた視界の端、カチャリと軽い音を立てて部屋のドアが開かれる
悲鳴にも似た生徒たちの声が大きく響いたのはたった一瞬で、身体を滑り込ませ流れるような手付きで扉を施錠した轟くんがずるずると床に座り込んだ
「っはぁ・・はぁ」
「轟くん、!?」
「めぐ・・っ、よかった、・・!」
賑やかな廊下の気配が遠ざかると、彼は今にも泣き出しそうな表情で私を見上げて
いつもより疲れの残るその顔にずきずきと胸が痛む私を他所に、彼は心底安堵したような息を吐いて立ち上がった