第13章 お決まりでしょうか◉共通ルート《後編》
こんなにお腹一杯なのはいつぶりだろう、全てにおいて一枚も二枚も上手な爆豪くんは満足気に口角をあげて、静かに車を走らせる
「お休みの日、ちゃんとあるんだね」
「俺が休まねェと他のヤツが休みづれェだろ」
「ふふ、本当ちゃんとしてるよね」
ホワイトな職場で羨ましいなぁ、なんて軽口を叩けるようにまで回復した私をちらりと見遣ると、お前が雄英じゃなきゃとっくに引き抜いとるわ、と彼は悪態をついた
「お休みなんて無いのかと思ってた」
「寂しかったかよ」
「・・そういうわけじゃない、と思、う」
頬がかぁっと熱くなったのを感じて、私はいそいそと窓の外に視線を向ける
途端に何を言うべきか、言葉が見つからなくなってしまった
「そういうとこだテメェ、自覚しろや」
赤くなってンじゃねェ喰うぞ、吐き捨てた爆豪くんは染まった目元を隠すように自らの髪をガシガシと乱した
海辺の公園、寒さを感じない暖房の効いた車内で沈んでいく陽を眺める
まだ夜には遠いのに、逃げるように沈んでいく夕日の気持ちがほんの少しだけ分かるような気がした
もうすぐ、夜になってしまう
私の心を掻き乱して、決して逃がしてくれない彼が、受け取る資格のない愛の言葉に溺れる夜が、やってくる
今日は会えないと連絡しよう、そう心に決めてスマホを手に取ると、隣で静かに目を閉じている爆豪くんをちらりと見上げた
「・・私、飲み物買ってくるね」
罪悪感に苛まれながら搾り出した声、シートベルトを外しながら目線を落とすと頭上で低い声が響いた
「アイツが来ンだろ」
ガンッ、と音を立てて窓ガラスに手をついた彼の腕に行く手が塞がれると私の息が止まる
「知らねェとでも思ったか、舐めんな」
先ほどは違うその雰囲気に圧倒されている私を彼は鋭い視線で捉えると、爆豪くんは私の両手をいとも簡単に拘束した
「ちょっ・・!」
「貸せや」
私の手から強引にスマホを奪い取ると彼はすぐにその画面を開いて、私に見せつけるように片手でメッセージを打っていく
「帰さねぇよ」、「くたばれ」、短い吹き出しがふたつ並ぶとそれはすぐに既読がついて、着信が鳴るその瞬間、彼は鼻で笑ってスマホの電源を切ると後部座席に投げ捨てた