第12章 お決まりでしょうか◉共通ルート《前編》
「ふ、ふたりとも!さすがに薬師さん可哀想だよ・・!」
おずおずと制した緑谷くんの声すらどこか遠くのように聞こえる
睨み合う二人の冷たい温度が部屋に充満していくようだ
「ごめんなさい・・、突然すぎて頭が全然付いていかなくて」
私の発言に「そうだよねぇ、」とお茶子ちゃんが声をあげると、隣の緑谷くんが汗を拭った
「知らなかったのはたぶん薬師さんだけなんだ・・」
苦笑いする緑谷くんの横で笑いを堪えたお茶子ちゃんが「上鳴くんがめぐちゃんと話した時なんか、二人とも怖かったよねぇ」と大きく吹き出した
「かっちゃんも轟くんも多分初めての恋だから・・、僕が言えたことじゃないけど・・、」
二人には幸せになって欲しいんだ、なんて特大の眩しさに乗った圧力が私の心に容赦なくのしかかって、私は途方に暮れる
混乱する頭、握られたままの手、絡められた足、
ノンアルコールの会のはずなのに頭がぼーっとしてくらくらする
人を揶揄ってこんなことをする二人ではない、ということはつまり二人は真剣なわけで、
「あ、あの、私どうしたら・・」
キャパシティを優に超えた感情がみるみる私の視界を滲ませて、そこに映った彼は初めて見るくらいに優しい顔をしている
甘い音を立てながら蒔かれる恋の種に私はそっと気づかないふりをした
「今すぐどうしろって事はねェよ」
前を見据えたまま吐き出された声は周囲の喧騒に溶けて
「ああ、めぐを困らせたいわけじゃない」
「しれっと呼ぶなや・・!」
そっと解放された手足はじんじんと熱を持って、鳴り止まない心臓の音が二人に聞こえてしまいそうで落ち着かない
赤くなっているであろう顔も、乱れ始めた呼吸も、お酒があれば言い訳ができたのに、と顔を伏せるとそれを見透かした爆豪くんの声が耳元で甘く響いた
「ぜってぇモノにすっから」