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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第12章 お決まりでしょうか◉共通ルート《前編》



「薬師は今付き合ってる奴いるのか」

すっかり感傷に浸っていた私を引き戻したのは轟くんのその一言、口内を潤していた水が気管に入り咽せ返る
爆豪くんが吹き出した炭酸を慌てておしぼりで拭きながら、私はなんとか呼吸を整えた


「い、いない、よ・・?」

「そうか」

よかった、そう呟いて彼はまた満足気にお椀のお蕎麦を頬張った

「な、よかったな、爆豪」

「テメェのペースじゃねンだわ・・!」


一気に中身を流し込んだ爆豪くんが乱暴にグラスをテーブルに置くと
ずい、とこちらに寄りかかったその逞しい身体

「ば、爆豪くん、どしたの」

「ッセェ」


触れ合う肩にかかる重さが少しずつ大きくなっている気がしてよろりと壁に凭れ掛かると、くしゃりと和紙の歪む音がする


「おい爆豪、ちょっと近すぎねぇか」

眉を寄せた轟くんが刺すような視線を真っ直ぐに向けると爆豪くんが挑発的な笑みを浮かべた


「ンなことねェよなァ?」

有無を言わさぬ視線、横からのただならぬ圧力に思わず畳に突いた私の手にその大きな手が重ねられる

「席決めの時点で詰んでんだよ、ざまァ」

轟くんに中指を立てたその手はそのまま器用に私の指を絡めて、繋がれたそれを見せつけるように浮かせた

「あの、爆豪く」

「薬師が嫌がってるだろ」

不機嫌なその声色に爆豪くんの口角が上がると
突然するりと足先の触れた掘り炬燵の下、
驚きに声を漏らした私を轟くんが真っ直ぐに見つめていた

「逃げないでくれると嬉しい」

優しい声色とは裏腹に、くすぐるように絡められる足先は強引に私を捕まえて
こんなの勝てるはずがない、そう諦めた私は大人しくただただ狼狽えた


「あの、一体これはどういう・・」

助けを求めるようにお茶子ちゃんの方を見ると、意味深な笑みでこちらを見守っている
隣の緑谷くんに至っては申し訳なさそうに目を伏せて私に手を合わせている始末だ


「二人ともどうしちゃったの・・!」

「鈍感女が」

「爆豪と話したんだ、これからは正々堂々いこうって」

「勝手に仕切ってンじゃねェ」

「卒業して八年、そろそろいいだろってな」


清々しい表情で語る轟くんには、私の頭上の疑問符は全く見えていないみたいだ
隣の爆豪くんに助けを求めても絡めた指を見つめた彼は無言を貫いて、その手つきに顔に熱が集まっていく
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