第70章 七支柱春药 〜弍〜 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
チャポン ———
『広い浴室だなあ。本当に柱の待遇って一般隊士と全然違うよね』
頭と体を洗い終えた七瀬は、ふうと長くて深い呼吸をつきながら浴槽に浸かっていた。
自分が住んでいる借り長家に風呂はなく、いつも近所の銭湯で湯浴みを済ませている彼女。
『みんなが使用する浴場と同じくらい…ううん、あそこより断然広い。まあ柱は多忙だし、責任重大な任務ばかりだから、これぐらいは当たり前か』
胸の上まで浸かっていた体を少し沈め、湯船の中に両肩も入れる。気持ちよさに柱の屋敷なのだと言う事を、忘れてしまいそうになる七瀬。
「〜♩〜♩」
あまりの心地よさにとうとう鼻歌まで口ずさむ彼女だ。そこへ ———
「沢渡いるか。入るぞ」
「…!!?? はっ…?」
突然ガラリと浴室の引き戸が開いたと思うと、よく知っている人物が七瀬に声をかけた。
「…」
「? 話なら後にしてくれと言っただろう。だから来たのだが」
「いや…それ、は…」
湯気で彼女の目にはぼんやりとしか見えないが、義勇はどうやら腰元に手拭いをまいているらしい。
しかし、何故浴室に入って来るのか。
「あの、と、とみお、かさん?」
「何だ」
「ここ…浴室、ですよ」
「そんな事は承知している」
では何故浴室に入って来るのか。
先程と同じ問いかけを頭の中でしている七瀬をよそに、水柱はてちてちと可愛らしい足音を浴室に響かせながら、浴槽へと近づいて来た。
先程湯浴みを済ませた彼は桶で体を洗い流すと、静かに浴槽へ身を沈める。
「……」
「……」
七瀬はまだまだ事態が飲み込めていない。天然の性質がある兄弟子だが、まさか浴室に入って来るとは。
ここで彼女はハッと一つの結論に辿り着く。もしかしてあの血鬼術が発動した為か。そうであれば義勇の不可解な行動にも納得がいく。
『でも…こんな明るい場所で、面識がある兄弟子とあれをするのは…』
「次は…」
「は、はい! 何で、しょうか」
「俺の番だと宇髄が」
「あ〜…そう、なのですが….」
「……」
「……」
しばらく続く沈黙を打ち破るのは ———
「お前に喰われてしまうと聞いた」
「はっ…?」