第70章 七支柱春药 〜弍〜 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「いただきます」
「いただきます…」
「…」
「…」
座卓に向き合っている七瀬と義勇は、客間へと移動した後朝食を食べている所だ。
『やっぱり食事中は何も話さないんだ』
彼女は水柱の変わらない部分に、ほっとした。
二人は同じ水の呼吸を使用し、共に同じ育手から鬼殺を学んだ兄弟子と妹弟子の間柄である。
隠の清野が用意した朝食は白飯、わかめと豆腐の味噌汁、たくあん、作り置きだと言っていた鯵(あじ)の南蛮漬けだ。
『鬼殺の疲れが取れそう…美味しいなあ』
「…….」
先程と変わらず黙々と食べ続ける義勇は、七瀬が口に入れた南蛮漬けをようやく食した。
「……まい」
「? 何か言いましたか?」
「…」
ああ、美味しいって事か。
七瀬は目の前の兄弟子の表情を見て一人納得している。
無表情な義勇だが、食事中は僅かに雰囲気が変わるのである。
その後も二人は会話らしい会話をする事なく、朝食を静かに続けていった。
★
「ごちそうさまでした」
「…あの!」
「何だ? 話なら後にしてくれ」
湯浴みをする —— 義勇は箸を静かに置くと、浴室に向かって歩き始めていく。
『本当に冨岡さんは変わらないな』
閉まった襖をしばらく見つめた後、七瀬は残りの南蛮漬けを食した。
「沢渡さん、宜しければ水柱様の後に湯浴みされて行きませんか? お疲れでしょう」
「清野さん、朝食とても美味しかったです。ごちそうさまでした…ゆ、湯浴みまでは流石に——」
厨(くりや)に食器がのったお盆を持って行こうと思い、彼女が襖に手をかけたと同時に、隠が目の前に現れた。
手には大きな手拭いを持っている。
「これ、たおるって言うんです。手拭いが古くなって来たから先日町に買いに行った時に見つけて…とても肌触りが良いようですよ」
「え、たおる??」
「はい、水柱様は気に入って下さったようで、手拭いとこのたおるを脱衣所に置いておくと、いつもたおるを使って下さるんです」
「へ、へぇ〜そうなんですね」