第3章 君の笑顔が好きだから 煉獄杏寿郎
昼過ぎに父上が帰宅し、夕方には仔猫の飼い主も迎えに来た。
「行ってしまいました…少し寂しいです」
仔猫をお返しし、いつもの煉獄家に戻った。
ただそれだけだ。
しかし、仔猫がいたのはたった1日だけだったが、いざ居なくなってしまうととても寂しく感じられた。
「そうだね。でも仔猫の飼い主さん、いつでも会いに来ていいって言ってたから、また今度一緒に行こうね」
「はい!」
寂しがる千寿郎の頭をよしよしと撫でる紗夜。
こうしてみると、2人が本当の姉弟のように見えた。
「そろそろ夕飯の準備しないとね。今日は私も手伝うよ」
「いいのですか?ありがとうございます!」
「杏寿郎さん、私達お夕飯の準備してきます。出来たら呼びますね」
「うむ!分かった!紗夜、千寿郎、いつもすまないな」
「いいえ!兄上、いつもご飯を美味しいと言って食べてくれてありがとございます!では、支度してきます!」
2人は台所へと向かい行ってしまった。
1人縁側にポツンと残される。
1人になると、さっき聞けずにいた事をふと思い出してしまう。
『好きな男はいるのか』
……いるのだろうか。
もし、いると言われたら
他の男の名が出てきたら
俺はどうなってしまうのだろうか
む、いかん!
考え出したらキリがない!
それに、こんなにグダグダと考え事とは俺らしくない!
そうだ、鍛錬をしよう!
邪念を捨てるんだ!
縁側から広い庭の中心へと移動する。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火‼︎」
俺は炎の呼吸を壱から順に連発する。
“玖ノ型 煉獄“まで来たらまた壱から始めた。
止まったら考えてしまいそうだったからだ。
君の想い人は一体誰なんだ…
炎の呼吸の連発を、紗夜達が呼びに来るまでただひたすらに繰り返す俺だった。
「こら杏寿郎ー!“煉獄“を出すのなら裏山へ行ってきなさい!家の塀に風穴を開けるつもりかー!」
よもや!
二十歳になってまで父上に怒られてしまうとは!
俺もまだまだ子供だなと痛感したのだった。